建築家インタビュー 建築家の間取りから

遠く海を臨む、傾斜地に建つ住まい
~2つの開口が切り取る景観~

限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第13回は、傾斜地ならではの魅力的な景観を最大限に取り込んだ住宅、「SOL」(キューボデザイン建築設計事務所)です。

Architect

株式会社キューボデザイン建築計画設計事務所

猿田仁視さん

猿田仁視
1995年 横浜国立大学経営学部卒業
1995年~1998年 大工
1998年~2004年 設計事務所などで住宅・店舗の現場管理
2004年 キューボデザイン建築計画設計事務所設立
2007年 株式会社キューボデザイン建築計画設計事務所に改組

詳細を見る 作品事例を一覧で見る

―「SOL」は、猿田さんの事務所兼ご自邸である「cnest」のお隣さんだそうですね。建て主さんとの出会いのきっかけはどのようなものだったのでしょうか

当時、私は鎌倉に事務所を構えていたのですが、ちょうど大磯に土地を購入し、新しい事務所と自邸(現在の「cnest」)の設計をしていたところでした。そんなある日、事務所に設計のご相談にいらしたのが、「SOL」の建て主さんだったのです。敷地についてお話を伺っているうちに、偶然にも現在自分が計画中の敷地の隣であることが分かりまして、それはもう驚きました。お隣の敷地が空いているのは知っていたので、「どんな人が住むのかな」と思っていたのに、まさか自分のお客さんになるとは想像もしていませんでしたからね(笑)

―お隣に建て主さんがいるというのはなかなかの緊張感のある状況ですね。

建築家と施主、という関係に加え、この先ずっとおつきあいが続くお隣さんでもあるので、やはりプレッシャーはありました。ですから、初回のプレゼンテーションの前に何度か食事に行ったりして、お互いの人となりを知ることから始めました。そうしていくうちに意気投合し、お互い信頼関係が芽生えてきました。「SOL」と「cnest」は傾斜のきついがけ地に並んで建っていて、東側には豊かな緑を、南側には遠く相模湾を臨むという立地です。こうした同じような土地に魅力を感じた者同士なわけですから、価値観には共通する部分があったのだと思います。最終的には、「この土地を一番よく知り、一番愛着を持っている建築家は猿田さんしかいない」とおっしゃっていただき、正式に設計を任せていただくことになりました。

―「SOL」の外観についてお伺いします。白い壁面にランダムに配置された2つの窓が目を引きますが、これはどのような意図で設計されたのでしょうか。

この敷地の最大の魅力は、何といっても南側に広がる美しく雄大な景観です。プランを考えるうえでは、この景観をどのように活かすかがとても重要になります。一般的には、こうした敷地では南面に開閉可能な大開口を設けたり、バルコニーを設けたりすることが多いのですが、「SOL」では南側に広がる風景を切り取るようにして窓を設け、絵画のように見せたいと考えました。そのため、最も景観に恵まれた2階にLDKを配し、そこに2つのFIX窓を設けてピクチャーウィンドウとしています。さらに、2つの窓をずらして配置することで、室内から見える景色に変化を持たせています。空の色は、季節や時間、また立ったときと座ったときなど、見る角度によっても様々に変化します。この変化を楽しめるようにと、私から提案して実現したのがこの窓です。

―平面図を拝見すると、玄関が2階に配置されていますね。建物へのアプローチも2つのルートがあります。

「SOL」は斜面に建つ住宅のため、外部からのアプローチが少々特殊です。徒歩で1階にアクセスするには約60段の階段を上らなければなりません。一方、2階部分は道路と近いレベルにあります。立地的にもクルマを利用することが多いため、利便性を考えて2階に玄関やストックヤードを設けました。こうすれば、たとえば買い物から帰ったとき、クルマから荷物を下ろして玄関に入り、すぐにパントリーやストックヤード、キッチンへとアクセスできます。また奥様はお料理がお好きとのことでしたので、LDKに造作したカウンターテーブルを中心に回遊できるようなプランとしています。ちなみにキッチン部分の床は、リビング・ダイニングよりも一段低い位置に下げていますが、これはキッチンとテーブルの天板の高さを合わせるほか、料理をする奥様が、LDKにいる旦那様やお客様と視線を合わせやすいように、という意図が込められています。

―「SOL」の敷地西側は少し出っ張っていて、扱いが難しそうです。

「SOL」では、1階のこの部分に浴室を配置しました。浴槽の脇には南側に向けて開口を設けてあり、露天風呂とまではいきませんが、かなり開放感が得られるようになっています。またこの浴室の真上には、建物から飛び出すようにバルコニーを設けています。「SOL」には全部で3つのバルコニーがあり、それぞれから違う景色が臨めるようになっています。これに加え、建て主さんの強い要望でルーフデッキも設けました。2階から階段を上り、塔屋を経由してアクセスするルーフデッキは建物のほぼ中央に位置し、周辺の全景を360°のパノラマで楽しめるという最高のロケーションです。

―LDKを含め、「SOL」は全体的にかなりシンプルで無駄のない内装になっています。これも建て主さんからの要望だったのでしょうか。

色使いについては白や黒、ダークブラウンなどシックなものを中心にして、その他の内装についても余計な要素はどんどんそぎ落としてほしい、というリクエストを頂いていました。そのため、壁や天井は白で統一し、見切り材を設けずシームレスにつないでいます。サッシ枠も黒にして色の数を絞り、床やカウンターテーブル、階段もモルタルで仕上げました。浴室の床も黒のタイルで仕上げ、洗面室との境界部分はガラスの建具で仕切るなど、余分な要素のほとんどをそぎ落とした空間になっています。もともと建て主さんからは、「日常のなかに非日常が感じられる住まいを」というご希望をお持ちでした。結果的に、良い意味で生活感のない空間となり、当初のご希望に添えたのではないかと感じています。

白、黒、ダークブラウンのシックな内装

白、黒、ダークブラウンのシックな内装

バスルームと洗面室はガラスで仕切られている

バスルームと洗面室はガラスで仕切られている

シックな内装が織り成す、日常の中の非日常

シックな内装が織り成す、日常の中の非日常

編集後記

株式会社キューボデザイン建築計画設計事務所を訪ねて

「SOL」は『建築家の隣人が建て主さん』という特殊な状況の事例。その後のご近所付き合いが気になるところですが……。「おかげさまで、関係はすこぶる良好です(笑)。定期的に食事をご一緒したり、毎週、一緒に落ち葉を掃除したりしています」と猿田氏。やはり、同じ土地に魅せられた者同士、心通じる部分があるのでしょうね。取材の最後に、猿田氏は笑顔でこのように語ってくださいました。「最高の建て主さんと、最高の隣人を同時に手に入れられるなんて、めったにありません。僕は大変な幸せ者ですね!」

同じテーマのコンテンツを読む

注目の建築家

ISSUE

新着お役立ち記事

記事一覧へ

how to use

建築家オウチーノの使い方

FAQ -よくある質問と答え-

TRUSTe

このページの先頭へ