建築家インタビュー 建築家の間取りから

切妻屋根と白い壁とに守られる家 ~シンプルを極める~

限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第8回は、切妻屋根に白い壁、シンプルを極めたことで生まれた「OUCHIシリーズ」(石川淳建築設計事務所)です。

Architect

石川淳建築設計事務所

石川淳さん

石川淳

1966年 神奈川県湘南地方生まれ
1990年 東京理科大学工学部建築学科卒業
1990年 建築家早川邦彦氏に師事
1993年 インターデザインアソシエイツに参加
2002年 石川淳建築設計事務所設立
2009年~2013年 東京理科大学工学部建築学科非常勤講師
2010年 株式会社 石川淳建築設計事務所として法人化

<受賞歴>
2003年 第13回TH大賞 大賞(Y.ケンネル)
<雑誌>
月刊HOUSEING
新建築住宅
SUMAInoSEKKEI
MYHOME100選
他掲載多数
<テレビ>
渡辺篤史の建もの探訪
他出演多数

詳細を見る 作品事例を一覧で見る

―石川さんは「OUCHI(オウチ)シリーズ」として、白い外壁+シンプルな切妻屋根の住宅を数多く手がけられていますが、このOUCHIシリーズが生まれたきっかけを教えてください。

OUCHIシリーズのきっかけとなったのは、私がまだ前の事務所に勤務していた2001年に、友人の依頼で設計した「Y.ケンネル」という住宅です。この住宅は、床面積や建物の大まかな形状などがすでに決められている「フリープラン型の建売住宅」でした。フリープランとはいえ、あくまで建売住宅なので設計の自由度はかなり低く、私が現場に通って監理をすることもできなければ、工務店を選ぶこともできません。このときの工務店さんも、建築家が設計するような複雑な住宅は未経験とのことでした。
そこで、どんな施工者さんでも無理なく建てることができるよう、建物の形状や外観などのデザインを極力シンプルに設計しました。外部の仕上げは1種類のみに絞り、内部の仕上げも2色の塗り分け程度にとどめ、読み違えることのないよう分かりやすい設計図面を描き上げました。その結果、外壁は白一色で、必然的に屋根の形もシンプルな切妻屋根となりました。こうして生まれた「Y.ケンネル」が、現在のOUCHIシリーズのきっかけです。
幸いなことにこの住宅が多くのメディアに取り上げられ、それを見たお客さんが、事務所に相談に来られるようになりました。その後、シリーズとしての展開が始まり、現在までに32棟の設計をさせていただきました。

―「OUCHI-01」を含め、石川さんが手がける住宅はファサード(建物の正面外観)に窓が少ない点も特徴的ですよね。

個人的には、たくさんの窓をつくって、たくさんの光を取り込むことだけが「開放的な住まい」ではない、と考えています。
住宅には、少なからず「家に守られている」という感覚が必要だと思うのです。大きな窓がたくさんあると、部屋が外部に露出することになりますよね。そうすると、外からの視線が気になって落ち着いて過ごせない。まあ、これは私自身がインドア派だということもあるかもしれませんが(笑)。
いずれにせよ、たとえばパジャマ姿のままでも安心してリビングでくつろげるような家が理想だと思っています。これも、開放感のひとつの形ですよね。
それから、ファサードに大きな窓をつくろうとすると、見栄え上は製作建具が理想なのですが、製作建具はアルミサッシに比べて高価ですから、コストコントロールが困難になります。また、窓の枠を伝った雨水が壁から垂れることで雨だれ汚れが目立ち、美観を損なうという問題もあります。建て主さんの中には、「窓が少ないと室内が暗くなるのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、トップライトやハイサイドライトなどを計画的に配置することで、内部には十分な採光が得られるよう工夫しています。

―外観は極力シンプルに、というのが石川さんのお考えですよね。そうしたシンプルな外観に対して、内部の間取りはどのように設計されているのでしょうか。

建築の世界には「シークエンス」という言葉があります。「移動するたびに景色やデザインが切り替わっていく」といった意味ですね。住宅を設計するうえで、私はこの「シークエンス」を大切にしたいと思っています。つまり、玄関のドアを開けて家に入り、奥へ向かって歩いて行く、という過程の中にどのような場面展開をしていくかを常に考えているのです。低い天井の通路をくぐって進むとその先に大きな吹き抜けがあるなど、歩いて回ったときに、キレイだとかカッコイイだとかだけではなく、「楽しい」と感じられるような空間をつくろう、と。
OUCHIシリーズとして展開する前の住宅で「G-n1」という作品があるのですが、この住宅では階段の途中の壁に小さな穴をあけて、そこからスキップフロアで設けた中2階の和室にアクセスできるようにしています。階段の途中に出入り口があると、どこにつながっているのかな?とワクワクしますよね。大きな吹き抜けがあったり、部屋全体がつながったりする解放的な間取りの住宅も多いですが、こうした工夫は、大空間にはない魅力といえるのではないでしょうか。

―今回の「OUCHI-01」はシリーズの名を冠した第1作目ですが、やはり、白くてシンプルな切妻屋根の住宅となっていますね。この住宅では間取りにどのような工夫をされたのでしょう。

「OUCHI-01」は2世帯住宅の建て替え事例なのですが、先ほどお話ししました「シークエンス」の考え方がここでも具現化されています。
1階に親世帯、2階に子世帯のスペースを配置しているのですが、単純に半分に分けてしまってはつまらない間取りになってしまいますよね。そこで、限られたスペースや高さで、できるだけ楽しい空間になるようスキップフロアを設けています。もちろん、ただのデザインとしてスキップフロアにしたわけではありません。
1階親世帯のリビングの天井高を高く設定し、天井高の必要ない寝室や玄関部分の天井を低く設定するという操作によって、寝室からリビングに移動した際により開放感が得られる。さらに、スキップフロアを介して親世帯と子世帯のリビングをつないでいます。親子とはいえ、やはりプライバシーは必要ですから、スキップフロアによって生まれたわずかな段差に「にじり窓」を設けています。子世帯のリビングからは、親世帯のキッチンの一部を覗くことができるようになっていますので、さりげなく親世帯の様子が見て取れるというわけです。

―子世帯のリビングには、白い壁が斜めに立っていますね。

垂直に分割してしまうと、子世帯の寝室がどうしても狭くなってしまいますよね。そこで、間仕切りの壁を斜めに配置することで、広さを確保しました。斜めの壁の上端部は天井まで伸ばさずあえて少し隙間を空け、ロフトに設けられたトップライトからの光がリビングに降り注ぐようにしています。また、壁を斜めにしたことで、ちょうどこの建物の屋根と同じ切妻屋根のような天井が生まれ、“家の中にもうひとつ家があるかのような、不思議で楽しい感覚”が味わえるようになっています。これも、先ほどのシークエンスの考え方ですね。切妻屋根は、古くから日本の住宅で採用されてきた伝統的な屋根です。「家」という言葉を聞けば、ほとんどの人が切妻屋根の住宅のイメージを思い浮かべるでしょう。
日本人の潜在意識の中には、「切妻屋根こそ住宅なのだ」という感覚が流れていると思うのです。その感覚が、冒頭でお話した「家に守られている」と感じさせてくれているのではないでしょうか。

2階リビング全景(OUCHI-01)

2階リビング全景。中庭やトップライトから十分な光が差し、明るい空間に(OUCHI-01)

1階床とほぼフラットな玄関土間(G-n1)

1階床とほぼフラットな玄関土間。あえて広めのスペースにして全体に広がりを持たせた(G-n1)

スキップフロアの段差を利用したにじり窓で親世帯とさりげなくつながる(OUCHI-01)

スキップフロアの段差を利用したにじり窓で、親世帯とさりげなくつながる(OUCHI-01)

親世帯リビングから子世帯リビングを見る(G-n1)

親世帯リビングから子世帯リビングを見る。目線を上げれば、家族の様子を感じ取ることができる(OUCHI-01)

1階寝室から中庭を見る。木製ルーバーから心地よい光が差し込む(G-n1)

1階寝室から中庭を見る。木製ルーバーから心地よい光が差し込む(G-n1)

中2階の和室から階段を見る。低い入り口をくぐって入る、特別なスペース(G-n1)

中2階の和室から階段を見る。低い入り口をくぐって入る、特別なスペース(G-n1)

編集後記

株式会社石川淳建築設計事務所

以前、ある建て主さんに「OUCHIシリーズ」は、普通を極めた“スーパーな普通”の家。そこが魅力ですね、と評されたことがあるという石川さん。「うまいこと言いますよねぇ」と笑顔で話してくださいました。しかし、そんな“スーパーな普通の家”には、石川さんの大いなる決意が表れていました。「ごく普通ではないけれど、頑張りすぎたデザインでもない。道行く人みんなが笑顔になるような家を、これからもつくっていきたい。建築は景観をつくる大切な要素。街並みを壊さないシンプルな家を、これからもつくりたい。それが、建築家に課せられた社会的責任のひとつではないか」。取材のあと、そう話してくださった石川さん。今回、私たちが取材を通じて感じたのは、「普通を極めること」の難しさでした。

切妻屋根の模型

OUCHIシリーズの切妻屋根がなんとも愛らしい模型たち(石川淳建築設計事務所にて)

同じテーマのコンテンツを読む

注目の建築家

ISSUE

新着お役立ち記事

記事一覧へ

how to use

建築家オウチーノの使い方

FAQ -よくある質問と答え-

TRUSTe

このページの先頭へ