中庭から光を取り込む
?明るく暮らす「2世帯+バリアフリー」の住宅?
限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第6回は、崖や擁壁に囲まれた敷地ながら、家全体に光が回る2世帯住宅の事例、「鶴見の家」(横山浩介建築設計事務所)です。
株式会社横山浩介建築設計事務所
横山浩介
1972年 横浜市生まれ
1995年 関東学院大学工学部建築学科卒業
1995年 (株)松尾工務店
1999年 (有)AMO設計事務所
2003年 横山浩介建築設計事務所設立
2008年 株式会社横山浩介建築設計事務所
テレビ東京「完成!ドリームハウス」 2011年1月 出演
テレビ東京「完成!ドリームハウス」 2014年1月 出演
――「鶴見の家」の敷地には以前、建て主さんのご両親のお住まいがあったそうですね。ご両親は以前の家にどのような不満をお持ちで、建て替えに当たってはどのような要望を出されたのでしょうか?
以前のご両親のお住まいは築49年の木造住宅で、今回、同居をきっかけに建て替えをご希望されました。平面図を見ていただけると分かると思うのですが、敷地は前面道路から3?4mほど低い位置にあり、言わば「崖に囲まれたような状態」になっています。こうなると当然、採光の条件はとても悪くなりますよね。実際、今回の建て替えでご両親が最も強く希望されたのが、「家全体に日が当たる、広々とした明るい家にして欲しい」というものでした。そのほか、バリアフリーへの配慮、出入りしやすいよう、1階部分ではなく崖の上に駐車場を設けることなども希望されました。また、「鶴見の家」は2世帯住宅ですから、それぞれの世帯のスペースをどうわけるかについても十分に話し合いました。
――このような不利な敷地条件下で十分な採光を得るのは簡単なことではありませんよね。室内に光を回すためにどのような工夫をされたのですか?
明るく広々とした家にするために、解決すべき課題はたくさんありました。最も重要だったのは、既存敷地の有効宅地面積(敷地のうち、建物を建てられる部分)が狭かったこと、そして、敷地南側に古い擁壁が迫っており、圧迫感を与えるだけでなく倒壊の危険をはらんでいたことです。そこで、この古い擁壁を造成し直し、有効宅地面積を可能な限り広げました。そのうえで、建物の計画地をできるだけ北側に寄せ、それによって南西に生じたスペースに中庭を設けることにしたのです。その結果、ほとんどの居室が中庭に面することになり、家全体に光が回るようになりました。特に、家族全員が集まる1階リビングでは、中庭に面してデッキを設置し、フルオープンできる大開口も設けて、外部との一体感が得られるつくりとしています。また、唯一、北側に配置されて中庭に面さない2階の子供室も、引き戸の上をガラスの欄間とし、南側にハイサイドライトを設けることで、十分な明るさを確保できました。
――ご両親からの要望にあった「バリアフリーへの配慮」についてはどのように間取りに反映されたのでしょう?
ご両親が日常的に段差を昇降する必要がないよう、「鶴見の家」では、親世帯の生活スペースはすべて1階に集約されています。道路から玄関へのアクセスはスロープになっているので、将来、車いすを使用することになっても安心です。駐車場は、車の出入りを考えて1階より4メートルほど高い2階部分に設けていますが、ここへは家庭用エレベータでダイレクトにアクセスできる動線になっています。
また、浴室もバリアフリーに配慮しています。ユニットバスなどの既製品を設置する場合、洗い場と脱衣場の間にどうしても段差が生じてしまいますが、「鶴見の家」では、段差ではなく排水溝を兼ねるグレーチングで仕切っているので、床がフラットになっています。これは、在来工法、いわゆる手づくりの浴室だからできたことです。細かい部分ではありますが、自由な設計によってこうした細かな配慮ができる点は、我々建築家との家づくりのメリットと言えるでしょうね。
――2世帯住宅では、親世帯と子世帯の距離感をどのように設定するかという問題もありますよね。「鶴見の家」ではどのような考えのもと、間取りを計画されたのですか?
先ほど、バリアフリーの観点から、親世帯の生活スペースは1階にまとめたと申し上げましたが、この時点ですでに子世帯のスペースとのほどよい距離ができていますよね。とはいえ、完全に分断してしまうのではなく、1階のリビングやダイニングは家族全員が食事をしたりくつろいだりする場所として、広々と明るいスペースにしてあります。
ただ、子世帯と親世帯とでは生活のリズムは違いますから、その点にも配慮しました。2階にも子世帯用に玄関を設けて、仕事で帰宅が深夜になった場合もご両親が気にならないような間取としました。
いずれにしても、世帯間の距離については、そのご家族ごとに考え方が異なります。事前に両方の世帯の方と十分にお話をし、間取りを決めていくことが大切でしょう。
――崖にかこまれたような敷地にありながら、明るく、安心して過ごせる2世帯住宅ができましたね。ご両親もご希望がすべて叶い、満足されていることでしょうね。
はい、ありがたいことに、建て主さん、ご両親ともにとても喜んでいただけました。私が一番嬉しかったのは、建て替え前に比べ、ご両親の表情が見違えるように明るく生き生きとしていたことです。お子さん夫婦とお孫さんとの暮らしが、日々の活力になっているのかもしれませんが、どちらにしても、住宅の設計を通して、人にささやかな幸せを提供できたのだとしたら、建築家にとってこれほど嬉しいことはないですね。
1階リビングに隣接する対面型キッチン。家族に団らんのひとときを提供する
2階デッキから東方向を見る。鉄製のルーバーが、通行人からの視線をほどよくカットしてくれる
中庭に設けられた1階のデッキ。2階にも同様のデッキがあり、各室と外部空間をつなぐ
数年前、ご自身の自邸を建てられたという横山さん。そのとき「監理」の大切さを改めて痛感したそうです。「監理とは、工事がきちんと行われているかをチェックする業務のことで、建築家にとって重要な仕事のひとつ。自邸を建てているときは、何か問題が起きないよう、緊張しながら頻繁に現場に足を運んでいました。そのとき、『私を頼ってくれる建て主さん全員が、今の自分と同じ気持ちなんだ』と思い知ったのです」。それ以来、今まで以上に監理に力を入れるようになったのだそう。「建て主さんの喜ぶ顔を見るのが一番嬉しい」というありふれたセリフも、横山さんの口から聞くと、強い説得力を持って響いてきました。
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