逃げるな!高齢化 思いやる心、掘り起こす
2011年3月4日掲載
愛知県一宮市で不動産業を営む川延耕一氏(71)は、長年築いてきた人脈と不動産の知識を生かしながら不動産コンサルタントとして活躍している。
- 今、楽しみにしているのがこの4月に竣工する「木曽川里小牧デイサービスセンター」だ。資産家のG氏から約600坪に及ぶ土地の有効活用を相談され、高齢者通所介護事業所(デイサービスセンター)の建設を提案した。 川延氏は言う。「これからの土地の有効利用には高齢者住宅や高齢者施設を視野に入れて検討することが重要だ。増え続ける高齢者への対策は、国や行政の予算だけでは極めて困難。民間の協力・参入が不可欠になる」
- 絶対的供給不足に
- 同氏の調査によれば、完成するセンター周辺には65歳以上の高齢者が木曽川町(6700人)と北方町(2500人)だけで9000人以上。送迎バスで通所可能な範囲を5?7kmとすれば、その数は数万人にも及ぶという。しかも現在、同エリアに大型のデイサービスセンターはなく供給不足がはっきりしている。 デイサービスは高齢者に日中だけ滞在してもらい、食事・入浴・リハビリなどのサービスを提供する施設だ。日々介護が重くのしかかる家族の負担を軽減することができ、社会から孤立しがちな一人住まいの老人には、人と接する機会を持ってもらうこともできる大切な施設である。 デイサービスセンターが提供しているこうした様々なサービスを自宅で利用できるようにするために来年度、国交省と厚労省の共管で創設される見込みなのが「サービス付き高齢者向け住宅」だ。 高齢者の多くは、できれば住みなれた自宅で介護サービスなどを利用しながら最期を迎えたいと思っている。 デンマークでは88年以降は高齢者施設の新築をいっさい禁止し、外部サービスを利用する高齢者住宅の建設を推進している。要介護度が高い高齢者には、高齢者住宅の一形態として、介護職員が24時間付いている住宅(プライエボーリ)を普及させている。
- 施設から住まいへ
- プライエボーリは介護職員付きといっても、従来の施設とは本質的に異なる。どんなに重い介護が必要になっても、また認知症になったとしても、サービスはあくまでも高齢者の残存能力を最大限に引き出し、自力の生活継続を支援するためのものだ。 それが尊厳なくしては生きることができない人間に対する当然の接し方として国民的コンセンサスを得ている。 「住宅こそ社会保障の基盤」という考え方が国民に浸透しているからだが、こうした思想を実現していくためには地域レベルでの高齢者向け住宅の普及と、介護サービス拠点の整備が必要になる。 国交省は来年度予算として今年度比約2倍の325億円を計上し、高齢者等居住安定化推進事業を拡充する。 同省の川本正一郎住宅局長は「今年度の160億円は、当初の予想をはるかに超えるスピードで使い切った。高齢者住宅に対する需要は急増している」と驚きを隠さない。 2月23日、来年度の同推進事業について国交・厚労両省の担当者が直接説明する会が都内で開かれたが、300人を超す業界関係者が参加し熱気に包まれた(写真右上)。 これまで、同推進事業で特に先導性の高いプロジェクトとして公募・選定された事例を見ると、地域との連携強化や多世代交流型などに高い評価が与えられていることが分かる。 例えば09年度には、兵庫県相生市で介護事業者が自社の小規模多機能事業所の近くにある空き家(5DKの木造平屋)を改修し、近隣の病院などとの連携体制を確保しつつ高齢者の住まいを整備した事業が選ばれた。身近にある地域の空き家を活用すれば、高齢者の転居に対するプレッシャーをやわらげることができる。広い前庭は地域の交流広場として開放し、高齢者の生きがいの場にもなっている。
- 地域との連携目指せ
- 前回紹介したシェアハウス振興会は、地域の介護業者を応援する事業も展開している。山本久雄代表理事は言う。 「今後中小の介護事業者が存続していくためには、介護保険対象外の事業も含めた多角経営が必要になるだろう。高齢者と若い世代が共に助け合って暮らす多世代型シェアハウスや、介護予防の?街角健康倶楽部?の運営などを提案している」 そうした施設を供給していくためには空き家の再生やリノベーションが必要になる。そこで同振興会は目下、地元の建設・不動産会社と介護業界とのネットワークづくりも推進している。 ◇ ◇ 昨年秋、高齢者向けの賃貸住宅について研究報告した不動産流通近代化センター総務部参事の東登氏は「高齢者向け住宅事業は、高齢者だけでなく地域住民のニーズも救い上げていくことで、地域全体の活性化を促す可能性がある」と指摘している。 地域住民のニーズに精通しているのは、長年そこで生業的な営みを続けている地元の不動産会社だ。商店街、病院、児童保育所、障がい者施設など、あらゆる施設の関係者との接点も多い。 地域に根を張る人たちが高齢化問題に真正面から向き合い、高齢者を思いやる心を掘り起こせば、ビジネスチャンスは無限に広がる。
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