注文住宅の最大の魅力は、デザインや間取りなどの「自由度の高さ」と、建て売り住宅にはない「個性」にあります。それらを支えるのが、建築家の「アイデアの引き出し」。コストや敷地条件、法律上の制約を守りながらも自由で個性豊かな家づくりを実現するには、多くの引き出しを持つ建築家の力が不可欠です。もしかすると、「引き出し」の中身を覗くことが、理想の建築家に巡り会う一番の近道かもしれません。そこで本シリーズでは、建築家のそんな「アイデアの引き出し」より「おすすめの部材」をピックアップ。vol.2では壁&天井材についてご紹介します。
LDK・・・やはり飽きのこない白系が人気
塗装のような風合いが魅力、サンゲツのペイントクロスを使用した吉川直行さんの作品事例「白い原石の家」。
家族が日々集うだけでなく、来客時にも人目に付きやすいLDK。壁や天井の仕上げ材もじっくり選びたいところです。LDKは住まいによって形や広さもさまざまですので、「LDKにはこの材料!」という決まりはありませんが、コストを抑えつつ、明るくシンプルな空間にするために白のクロスを全面張り、というパターンが最も多いようです。ちょっぴり大人の雰囲気を出したい場合は、テーブルやソファ、カーテンなどのファブリックをダークブラウン/ブラックといった落ち着いた色調にすることでもコントロールできます。
また、予算に余裕があれば、左官や塗装も選択肢に入れたいところ。工事の面積が大きいため手間はかかりますが、その分、クロスにはないクールさや高級感を演出できます。
天井は「現し」の仕上げにして、木の梁をあえて見せる場合も。白を基調としながらもほどよく木の質感が楽しめ、スッキリ&柔らかなLDKとなります。
水廻り・・・メンテナンス性も考えた素材選びを
木のカウンター、モザイクタイル、大胆な柄のクロス。ついつい入りたくなる、遊び心のある洗面室。竹内国美・由美子さんの作品事例。
水や油の汚れが付きやすいキッチンの作業スペース周辺は、汚れに強く手入れがしやすい材料を使うのが一般的。カラーバリエーションや大きさ、柄などが豊富なタイルが人気ですが、扱いやすい既製品としてキッチンパネルが使われるケースも増えています。キッチンパネルにもカラーバリエーションがあるので、周囲の壁・天井に合わせて選ぶことができます。
浴室は、現在ではユニットバスが主流ですが、手づくりの浴室(在来浴室)にすれば、壁・天井ともに材料の選択肢が大幅に増えます。全面タイル張りにしたり、天井のみを板張りにしたりすることで、浴室の表情は一気に変わります。ユニットバスと在来浴室の中間的な位置付けとして「ハーフユニットバス」という選択肢も。これは、腰から上の部分の仕上げを自由に選ぶことができるというもので、板張りの壁など、ユニットバスでもてづくりのお風呂のような空間をつくることができます。
子ども部屋・・・ワクワク感を演出
さわやかなティファニーグリーンの塗装で仕上げた子ども室。奥村亜紀子さんの作品事例「江無田の家Ⅱ」。
子ども部屋の壁・天井には、子どものイマジネーションや感受性を育てるようなものを選びたいところです。たとえばクロスなら、オレンジやグリーン、ブルーなどの明るめのカラーのものを選ぶのも手。お手入れがしやすいビニールクロスなら少しくらいの汚れならすぐに落とせ、プリントの柄も豊富なので、子ども室にピッタリと言えます。また壁と天井で色や柄を分けるといった工夫を凝らせば、さらに楽しい空間になります。
そのほか、壁の一部をコルクにしてお絵かきした画用紙を張ったり、チョークボード用の塗装を施してお絵かきができる壁にしたり、といったパターンも。建築家はこうしたアイデアをたくさん持っているので、思い切ってお任せしてみるのもよいかもしれません。
寝室・・・くつろぎと落ち着きを
ダークな色合いでくつろぎを演出した建築家・二宮俊一郎+諸留智子さんno作品事例「苦楽園の家」。
1日の終わりを過ごす寝室には、LDKや子ども室にはない落ち着き感を持たせたいという人は多いはず。照明による演出も重要ですが、壁・天井の色使いも大きな効果をもたらしてくれます。一般的なのは、白系のクロスの一部に、落ち着いた色合いのクロスを混ぜるといった方法。壁の一面と天井をブラックやダークブラウン、その他を白にすれば、明るすぎず暗すぎない、ちょうどよい落ち着き感のある寝室となります。クロスの代わりに、一部を板張りにするのも効果的。落ち着き感に高級感もプラスされ、ホテルの寝室のような空間を味わうこともできるでしょう。
和室・・・最近では自由なスタイルが広がっている
畳・床の間壁・障子のデザインを「格子市松模様」でトータルデザインした和室。「光」を利用することで、畳のライン・木目のライン・障子の格子が浮かび上がり、落ち着きの中に動きが生まれた。建築家・近藤剛さんの作品事例。
住まいの中でも、使われる素材が最も特殊なのが和室です。真壁と呼ばれる構造(壁面に柱が露出した壁)になっている点も和室の壁の特徴ですが、壁材としては、土壁などの左官仕上げが一般的。天井は、板張りが基本で、なかでも最も多いのが「目透かし天井」と呼ばれるタイプ。板材と板材の間にわずかな隙間をあけて板を張って仕上げます。
ただし最近では、こうした本格的な和室は減少傾向にあり、リビングの一角に小さな和室を設けるなど、自由なスタイルで和のテイストを楽しみたい、という人が増えているようです。畳と障子、小さな床の間などを設けて、壁・天井ともに通常のクロスで仕上げる、といったケースも多いようです。本格的な和室にこだわりたいなら左官壁+板張りの天井、和風のちょっとした空間が欲しい、という程度であればクロス、のように使い分けるとよいでしょう。
人目に付かない場所・・・コスト優先で考える
WICの内部や納戸など人目に付きにくい場所は、コストを優先して壁・天井材を選びましょう。日常生活でも目にする時間が少ないので、こだわりを捨てて安価なクロス仕上げなどにすれば、浮いた予算で他の部屋に使う材料のグレードが1ランクアップできるかも!?
自然素材の特性を理解して頂けるのなら、自然素材の左官材料や、ムクを貼った壁をおすすめします
- カルクウォールは、既調合で寒石が入っており表情がつけやすく、一般の方でも比較的施工しやすい。吸放湿性にも優れているため、LDKなどご家族がくつろぐ場所に使用します。自然素材の特性を理解して頂けるなら、可能な限り自然素材の左官材料や、ムクを貼った壁などおすすめしています。もちろん、キッチン等は汚れがありますので、その辺りはクライアントと相談の上、メンテをとるか、素材を重視するか決めています。
また疾患等さまざまな原因になりうるものは、可能な限り使わないようにしています。ただ、住まい方、メンテナンス、コストによっては、クロスなど使うこともありますが、クライアントと相談の上、決定していくようにしています。
- 【事務所所在地】
- 関東
- 【対応エリア】
- 関東
- 東海
- 関西
- 九州
- 【好きな仕上げ】
- 左官仕上げ、コテ仕上げ、板張り(腰壁など)
- 【よく使うメーカー】
- 珪藻土壁紙(サンゲツ)、タナクリーム(田中石灰工業)
表情が無限にあって、包まれるような独特の雰囲気のある左官仕上げが好きです
- ローコストなら「珪藻土壁紙」がおすすめ。塗り壁に見え、調湿効果もあります。どの部屋でも合うのですが、汚れが落ちにくいのが難点。
ミドルコストならば「タナクリーム」。左官材の中では比較的安価で、調合済みなのでセルフDIYも可能。平滑なコテ押えは上品な雰囲気になり、微妙に光沢があるのがよいと思います。色は、やはり飽きがこない「白」だと思いますが、光の当たり方によって変わる微妙な白の違いを考えています。
- 【事務所所在地】
- 愛知県
- 【対応エリア】
- 関東
- 東海
- 関西
- 九州
- 【好きな仕上げ】
- 左官仕上げ、コテ仕上げ、コットンクロス
- 【よく使うメーカー】
- 珪藻土左官仕上げ「けいそうくん」、コットンクロス「すっぴんクロス アトピッコハウス」
自然素材の特性を理解して頂けるのなら、自然素材の左官材料や、ムクを貼った壁をおすすめします
- 「けいそうくん」は珪藻土の純度が高く、「すっぴんクロス アトピッコハウス」はコットン布クロスの割にローコストで質感がよいのでおすすめです。できるだけ調湿可能な仕上げを選択しています。将来手摺りが必要になる場所には、あらかじめ下地を入れておくなどの見込み工事も行うように配慮しています。。
リフォームの場合ですが、既存のクロスをはがした跡が残らないよう、下地処理をしっかり行い、外壁面に出来るだけ断熱材を入れ、上下隣に面する壁には、遮音を考慮した下地を入れています。
AEPは、光が均一的に反射しないので左官仕上げに近い柔らかい雰囲気の空間をつくれます
- 左官仕上げがベストですが、コスト面でいつでも採用できるわけではありません。しかしAEPはビニールクロスに比べると光が均一的に反射しないので左官仕上に近い柔らかい雰囲気の空間をつくることができます。
また、内装にアレルギー疾患等の対策を取り入れたい場合、中途半端な対策を講じても不安感を完全に払拭することはできません。化学物質を一切用いず、土壁+漆喰、または丸太組み工法により、建築自体に調湿性・断熱性を持たせた呼吸できる住まいを設計するなど、お困りの方が何に不安を感じていて、それをどうすれば解決できるのかを考えた設計を行う必要があります。
- 【事務所所在地】
- 千葉県
- 【対応エリア】
- 関東
- 東海
- 関西
- 九州
- 【好きな仕上げ】
- 左官仕上げ、塗装仕上げ、板張り(腰壁など)、クロス
- 【よく使うメーカー】
- 紙クロスのオガファーザー
自然素材の特性を理解して頂けるのなら、自然素材の左官材料や、ムクを貼った壁をおすすめします
- 特にお客様のご要望がない場合、採用は予算的な事が大きく左右します。コストが高い順に概ね左官>塗装>クロスとなりますが、こちら側が採用したい順番もだいたい同様です。
左官の代用としてコストを抑えるために左官風塗装を採用することもよくあります。またクロスでも健康に配慮してビニールクロスではなく「オガファーザー」等をそのまま使う事も多いです。板張りは予算的に厳しい場合でも部分的に使う事がよくあります。予算的には個室よりリビング廻りをどちらかといえば優先しています。子ども室はうるさくならない程度に、楽しい雰囲気になるような色使いを心掛けています