注文住宅の最大の魅力は、デザインや間取りなどの「自由度の高さ」と、建て売り住宅にはない「個性」にあります。それらを支えるのが、建築家の「アイデアの引き出し」。コストや敷地条件、法律上の制約を守りながらも自由で個性豊かな家づくりを実現するには、多くの引き出しを持つ建築家の力が不可欠です。もしかすると、「引き出し」の中身を覗くことが、理想の建築家に巡り会う一番の近道かもしれません。そこで本シリーズでは、建築家のそんな「アイデアの引き出し」より「おすすめの部材」をピックアップ。vol.1では床材(無垢)についてをご紹介します。
木となじむ日本の家、人気の背景
日本の気候風土に合う木をふんだんにつかった家。写真はブラックチェリーの無垢をつかった建築家・井上久実さんの作品事例「鶴見の家」
日本の住宅建材の代表格といえば、何といっても「木材」。世界トップクラスの森林国であり、高温多湿な気候を特徴とする日本では、調湿効果のある木の家が古くから人々に親しまれてきました。
現在でも、柱や梁といった建物の骨組みはもちろん、屋根や壁の下地にも木材が使われている日本の住宅。なかでも、常に肌に触れる部分である「床材」には、木を使った「フローリング」が圧倒的な人気を誇っています。
もはや私たちの暮らしになくてはならないフローリングの床ですが、フローリングにもさまざまな種類があり、それぞれに異なる特徴があるのです。
フローリングは「無垢」と「複合」の2種類
針葉樹 | 針葉樹 |
---|---|
スギ | ブナ |
ヒノキ | ナラ |
パイン | チーク |
タモ | ウォールナット |
ラーチ(カラ松) | メープル |
アカ松 | アメリカンブラックチェリー |
フローリングには、大きく分けて、「複合フローリング」と「無垢フローリング」の2種類があります。複合フローリングは、下地となる合板の表面に、スライスされた突き板を張り合わせたもの。安価で施工がしやすく、ハウスメーカーの住宅や賃貸住宅などに幅広く用いられてきました。 一方、無垢フローリングは、一枚の無垢板でつくられた天然材の床板。複合フローリングに比べて高価ですが、木の温もりが感じられ、空間に柔らかい表情を与えてくれる材料であることから、こだわりの家づくりには欠かせないものとなっています。
木の種類と代表選手紹介
木にはさまざまな種類があり、重さや硬さ、木目の表情や質感などが、それぞれ大きく異なります。こうした違いは、木が内部に持っている「組織」によって異なるのですが、これらの違いを「針葉樹」と「広葉樹」に分けて考えるととても理解がしやすくなります。 成長をした木は、「挽き方」により木目が変わります。山形の木目が現れる板を板目、縦縞の模様を柾目といいます。板目どりは反り、縮みも激しく、暴れや狂いが生じやすいため(木が反ったり縮んだりすること)、家具などは柾目どりのものを使います。目の詰まった柾目板は一本の木から取れる量も限られ、製材に手間がかかるため、価格も板目に比べ高いのですが、逆に、木の風合いを楽しむケヤキや栗などは木目を楽しむ風潮があるため、板目が珍重されます。
針葉樹の特徴
日本の住宅で最も広く用いられているスギのほか、ヒノキやヒバなどが針葉樹の代表格。針葉樹は比較的軽くて柔らかく、加工がしやすいのが特徴ですが、その割に強度があるため、スギなどは構造材にも使われています。また、木特有の香りがある点も針葉樹の特徴。ヒバやヒノキには独特の強い香りがあり、浴槽などに好んで使われてきました。 一方、針葉樹には「節」が多いという特徴もあります。フローリングに針葉樹を用いる際は、節の有無についても考える必要があります。逆に、節の多い材料は安価なケースが多いため、人目に触れにくい部分には節の多いものを使うなどの工夫をするのもよいでしょう。
- スギ日本では最もメジャーな樹種。柔らかいため傷は付きやすいものの、肌触りがよいことから人気の床材。加工がしやすく、床材以外にもさまざまな場所に用いられる。
- パイン輸入材で、スギと並ぶ針葉樹の代表格の1つ。価格帯・硬さ・用途ともにスギとかなり似ている。表情はナチュラルで、床材のほか家具にも使われることが多い。
- ヒノキスギと並ぶ、国産針葉樹の代表格。スギに比べて乾燥しやすいため、寸法安定性が高めの床材。古くから日本の建築に多用されてきた材料で、和風の空間によく用いられる。
- カラ松アカ松よりやや白みがかった色合いの樹種。アカ松と同様、強度は高めで寸法安定性もよく、樹脂成分によってあめ色に変化していく。
広葉樹の特徴
ケヤキやナラなどがその代表です。広葉樹の特徴は、硬く丈夫で傷が付きにくい点。針葉樹のような独特の香りもほとんどありません。 また、色味や木目の種類が豊富な点も広葉樹の特徴。ブナやナラなどの明るい色合いのものから、チークなどの茶褐色の材料、さらにウォールナットのように色が濃く重厚感・高級感のあるものなど、バリエーションがとても豊富です。そのほか、光沢の有無や目の細かさなどにも違いがあり、空間のイメージやインテリアに合わせて選ぶことができます。
- ナラ(オーク)薄い茶色と、表情豊かなはっきりとした木目が特徴の樹種。硬く丈夫で重厚感があり、床材の定番材料として広く使われているほか、家具などにも利用されている。
- ブナ(ビーチ)黄色と桃色が混じったような上品で明るい色合いと、繊細で緻密な木目が特徴の樹種。寸法安定性はあまり高くないが、弾力性があることから、曲げ加工を伴う家具(イスなど)にも重宝されている。
- メープル淡いピンクのような色合いと表面の光沢、そして、鳥の目のような小さな節(鳥眼杢=バーズアイ)が特徴。寸法安定性が高く、施工性に優れることから、楽器の材料として用いられることも。
- チーク水や湿気に強く、耐久性・強度の高い高級材料。寸法安定性も良好で、狂いが少なく、加工がしやすいのが特徴。色合いは金褐色〜茶褐色など、発育の状況によって不均一なものが多い。
これだけは知っておきたい、無垢フローリング「メンテナンスの極意」
ここまで無垢フローリングの特徴やメリットについてご説明しましたが、天然木である以上、取り扱いに注意すべき点がいくつかあります。ここでは、無垢フローリングの正しいお手入れ方法についてご説明しましょう。
伸縮や反りを防ぐために換気を!
無垢フローリングには調湿効果がありますが、水分を吸ったり排出したりする分、伸縮や反りが生じやすいという特徴があります。施工時には、それぞれの板材の間に小さな紙をはさむことでわずかな隙間を生じさせ、こうした木の「動き」をある程度吸収できるようになっています。ただし、水分や湿気が無垢フローリングの天敵であることに変わりはありません。こまめな換気を心がけることが大切です。
お役立ちコラム
フローリングの塗料と種類
傷を防いだり、掃除をしやすくしたりする場合、無垢フローリングには塗料を塗ることになります。フローリングの塗料には大きく分けて、ウレタンなど表面にコーティングを施すタイプの「造膜塗料」と、木の内部にしみこませるタイプの「浸透性塗料」があります。造膜塗料は傷や汚れに強いという特徴がありますが、表面が冷たく、木の質感も失われてしまいます。一方、オイルやワックスなどの浸透性塗料は、木の質感を損なうことなく材料を保護することができます。自然素材を原料とした塗料も多いことから、最近では住宅の無垢フローリングにはこうした浸透性塗料が人気です。
シミが付いてしまったら?
小さなお子さんのいる家庭などでは、床に食べ物や飲み物をこぼしてしまったり、クレヨンやペンで汚れてしまったり…ということもあるでしょう。造膜塗料のフローリングなら拭き取るだけで落とすことができますが、無塗装の場合や、浸透性塗料(コラム参照)の場合は、フローリングが汚れを吸収する前に、薄めた中性洗剤を含ませ、固く絞った雑巾などで素早く拭き取りましょう。シミが吸収されてしまった場合は、表面をサンドペーパーで軽く削り、その後でワックスなどの塗料を塗り直します。