建築家・松尾和昭さんのブログ「家事室、書斎など」
家事室、書斎など
2013/11/27 更新
住宅の依頼を受けて話し合いを続けていくと、けっこうな割合で依頼者ご夫婦から出てくるパターンがあります。
奥様からの要求で多いのはやはり台所に関して。
80%以上程度はここに集約されると行ってもいいくらいです。
あかるく使いやすいという基本的な要望に加え、近年の台所備品の充実度合いをメーカーが競い合って新商品を提出していますので、情報が溢れてしまい、かえってどれにしたらいいかわからないくらいで混乱状態に陥るようです。
システムキッチンも、本来のシステムキッチンとはかけ離れた製品(私はシステムキッチンモドキと呼んでいますが。)が我が国では製品化されていますが、これもしっかりとつくり込むとあっという間に100万円は超えてしまいますので結構コストがかかる部分です。
しかしこのシステムキッチンモドキも、天板だけを接合面なしの一枚板で作ったローコストキッチンも某販売店から出ています。あまりのローコストなので耐久性などに懸念がありますが、一見した限りではシステムとは呼べないにしても結構出来栄えはよさそうです。
そして奥様の縄張りといえる家事室。
この家事室でアイロン掛けや家計簿等の作業と趣味のための秘密基地とも言えるのでしょう。
男子禁制!は極端にしても、たいていご主人はその秘密基地の開かずの扉を開けて(扉があることはほぼありませんが)中へ足を踏み入れるのも、秘密情報を得るスパイもどきのようなドキドキ感があるかもしれません。
それはさておき、ご主人様からの要望に転じてみると、代表的に多いのが3つあります。
1つめは浴室を大きくして欲しい。
2つめは玄関を大きくして欲しい。
3つめは書斎が欲しい。
浴室を大きくというご要望はお風呂大好きな国民性から来ているのでしょうが、近年の若者はシャワーで済ませることが多いと聞きます。そういった習慣が普及してくれば、この浴室に関する考え方も変わっていくかもしれません。
玄関を大きくというご要望は、これは男の見栄を反映していますね。
昔から立派な家は玄関が大きいという固定観念が刷り込まれてしまっているためでしょうが、子供の頃から団地住まいで結婚して家を手にするまでもマンション住まいの世代では、玄関を大きくという考えは、あるいは少なくなってくるのかもしれません。
あるいは反動で大きくしたいというご要望があるのかもしれませんが、玄関で靴を脱ぐという習慣は洋風の生活に慣れてきた世代でも廃れないでしょう。
そして書斎です。
これって結構ご希望が多い部屋ですが、予算面で真っ先に削られる悲しい部屋でもあります。
よくTVで書斎で仕事や趣味に没頭しているシーンが出てきますが、実際毎日あのようなこと、されるのでしょうか。週末だけでもされるのでしょうか。
自分だけのテリトリーという満足感は何物にも代えがたいでしょう。
これは奥様の機能面を重視した家事室とは違うメンタル面での価値観になるでしょう。
我々設計者は、こうしたご要望を何とか満たしていけるように努力をしています。
しかし、やはり予算あってのこと。
それと敷地に許される延べ床面積が決められている関係上、諦めていただくことの方が残念ながら圧倒的に多いのも事実です。
その場合、そのうちのどれを諦めていただくかを決めていただきますが、その場合、そのご家族の力関係が見えてきて切なくなることも多いんです。
設計者は夢を実現するのも仕事なら、予算などの関係でその夢を一つずつ潰さざるをえない辛い作業も仕事なんです。