建築家・松尾和昭さんのブログ「コンクリートという材料」
コンクリートという材料
2013/08/26 更新
異常なくらいの暑さが続く中で、近所に建つマンションの現場でコンクリート打設が行われているのを目撃しました。
カンカン照りの状態の中でのコンクリート打設です。
専門家ならこんな陽気でコンクリートを打つならどういう対応を取らなきゃいけないかは十分承知の上での話ですが、一般の方は、熱くてカンカン照りのほうが早く乾いていいのじゃないかと思われているようです。
これは規模の大小にかかわらず、住宅の基礎のコンクリートも同様ですが、工程上、どうしても真夏にコンクリートを打たざるをえないことは避けらないケースも多々有ります。
御存知の通り、コンクリートはセメント、砂利、砂、水を混ぜ合わせて流し込み固める建材です。もちろんそこには鉄筋がないと強度が不足してしまいます。
その水で練ったコンクリートにはヒビ割れがつきものです。
このヒビ割れを無くす方法を業界でも模索しています。書物で読みその知識を持とに実践しますが、これがなかなか思うように行きません。
コンクリートは生き物だとつくづく感じさせられることが多い。
セメント、砂利、砂、水の量をJIS認定のコンクリート工場で試し練という作業を確認し、実際の現場でその通りのものを納入してもらうという仕組みになっていますが、これとてコンクリート工場から現場まで運搬する間の気温や現場搬入までの時間に係る交通事情等による影響がコンクリートに生じます。
もちろんそのことを見越して工場側で練り合わせる訳です。
その工場で練ったコンクリートを現場まで運ぶ専用車両がミキサー車です。運搬中にコンクリートが固まらないように耐えずコンクリートが入っているドラムをクルクル回しながら走ります。
現場で受け入れるときは、配合は工場に任せていますのでスランプ測定と言ってコンクリートの柔らかさを測定します。他にも諸々の検査を行い、問題なければそこで初めてコンクリートを型枠という合板で構成された中に流し込みます。
このことをコンクリートを「打つ」と言います。
流しこむ前に検査しないといけない大事なことは、鉄筋と型枠間の寸法(「かぶり厚」といいます)を測ることです。
これは建築基準法で決められた寸法がありますが、寸法が不足すると構造体としての強度に大きな影響がでます。
それほど古くないのに壁や柱、梁に筋状のものが見えるケースが有ると重いますが、これは被り厚が不足しているケースです。
被り厚が不足すると空気中の湿気をコンクリートが吸収して(仕上げをしていないコンクリートというのは近づいてみると穴がたくさん見えます。それは水分が抜けた跡のものです。)その水分で鉄筋が錆びて鉄筋の強度低下を招来ます。それを防ぐためにアルカリ性であるコンクリートで鉄筋を守っているという構成になっているわけですね。
実にうまく出来ています。
さて話の続き。
コンクリートを打つときどんどん流せばいいというのじゃなく、単位時間あたりの量が適切じゃないとコンクリートの中に空気が大量に混ざってしまいます。それが確保され、しかもコンクリートの中に含まれている空気を出すためにバイブレーターという器具を使い振動させて空気を表面に出します。
このバイブレーターもかけ過ぎると今度はせっかく練り上げたコンクリートの各材料が分離しますので、これも適切という曖昧な表現で作業せざるを得ません。本当は何センチおきに一箇所あたりの秒数も目安としてありますが、大人数で作業している時には、現場監督に指示していてもなかなかそれが守られにくいことも事実。
適切なコンクリートの打設が終わったら、「養生」というコンクリートを数日間、寝かせます。
実際は見た目には翌日から固まっていて上を歩くことも出来る程度になりますが、設計で要求されている強度が出るためには季節によりますが、冬場なら8日間は型枠をはずさないように決められています。梁などの構造強度に影響する部分を支える支柱は気温0°なら28日間、外しちゃいけないことになっています。
なんでも例外ってのはあって、コンクリートの圧縮強度が決められた数値以上がでれば外していいってことも書いてあります。
しかし、ここが最大の問題。
まずこの養生期間が守られない。養生中にコンクリートが早く乾燥しすぎないように湿潤状態にしないといけないのが守れらない。
工期を急がされている現場、工期が伸びると利益も落ちるので儲けを減らしたくない現場では、この決められたことを守らないでさっさと型枠を外してしまうケースが設計事務所などの第三者の監理者が存在しない現場ではよく見られます。
強度が出ていないコンクリートは豆腐みたいなものです。
ちょっとした地震でもヒビが入ったり、地震が来なくてもコンクリートが固まるときに出す水和熱でヒビが入ります。
コンクリートってのはこのことだけでも非常にむづかしい建材だということがおわかりいただけると思いますが、それでもいろいろな形が作れるので、設計するものとしては魅力的な構造体だということも。
彫刻的なコルビュジェのロンシャンの教会もコンクリートであるからこその建築です。
安藤さんの一連の打放し建築も同様。
コンクリートって真剣に取り組むととてもとてもむづかしい建材だということが簡単に書きましたが、おわかりいただけましたでしょうか。
でもいろいろな形が作れるという建材でもあるので、魅力的でも有りますね。