建築家・松尾和昭さんのブログ「メンテに配慮の設計が必要」
メンテに配慮の設計が必要
2013/08/04 更新
相変わらず改修工事ネタですが、改修工事でとてつもなく手間隙がかかる、つまりコストがかかる設計をするとこうなりますよという警鐘の意味もあり、自省も込めています。
とある公共施設での事。
それはそれは豪華絢爛、凸凹多数、バブル真っ盛りにも公共施設はここまで金をかけられたのかと思うほど。
そうは言っても建築的には魅力を持てず、ただただその豪華さにスンゲーと感嘆詞が出るだけ。
その豪華さを枚挙すると。
施設エントランスホールには床・壁・階段の床壁とも大理石。キッチュかなとおもいきや、これが本物。
その階段。踏面がRです。もち蹴上もR。
石は曲がるものじゃないってことは、どうすればRになるかって言うと、石を削って最終的にR状態にするんですね。
要するに途方も無い無駄が出た挙句の自己満足としか思えないデザイン(と、大理石なんぞ使ったこともなく、石をR加工するなんてことをしたらお前は馬鹿かと罵倒されそうなくらいのローコストで必死にデザインしている者のヒガミ・・)
とにかく、そのホールの壁・天井ともどもプレーンな面がなく、とにかく凸凹凸凹の繰り返し。
外部のカーテンウォールも、デザイン優先、その後のメンテなんざ全く念頭にないってことは売名行為に走る設計士にありがちな姿。雨漏りのしそうなディテールのためか、あちこちから漏水とのこと。
そのサッシの漏水対策もさることながら、改修工事のメインは屋内プール壁のタイル補修。
そのタイル、特注品でしかもサイズが4種類。
特注だけに納期がとてつもなく係る。
もっと驚くことは、そのプールの天井は膜構造ですが、その膜に対して間接光として照射できるように水銀灯が10基付いています。
7mの高さに。
当たり前の感覚の設計者なら、球切れのときどうすんの?と思うはず。
空中に浮かぶ術をその設計者は持っていたんでしょうが、普通の人は浮かべないから、脚立か足場を組むしか無い。
7mの高さまで脚立で登るなんて、高所恐怖症の私にはとても出来ない相談です。
つまり後々のメンテナンスを全く考えていないデザイン優先だけで設計したってのが明らか。
スクラップアンドビルドの時代なら不便だから建て替えろってことになった時代が長く続いたんですが、いまや建物を修理しながら長く使おうというように、この国もやっと当たり前の感覚になって来ました。
まあ、そのために新築の依頼が激減したって事実も有りで・・・
新築と違うノウハウが改修工事には必要であり、それも建物の種類で千差万別ってことも有り、なかなか一つのフォーマットで対応できるものでもないってことも学ばされています。
こんな設計しちゃイカンわなーってことも、勉強になります。
組織にいる設計者はこんな無茶な設計していても責任を感じることがないんでしょうか。
私のように個人事務所では、もろに評価に影響します。
設計依頼を受けたからにはそれなりの提案をするのが業務としても、使用者にとって不便な思いをさせるような設計をしてしまったら、責任重大だという認識はいつも持っています。
設計の際にクリアしなきゃいけないことは様々な法規制がうんざりするほどわんさかありますが、利用者がどうメンテするのかということに対する配慮も忘れちゃいけないことだということを実感させられます。