建築家・浪瀬朝夫さんのブログ「「家づくりのヒント」第十二回」

「家づくりのヒント」第十二回

2014/02/20 更新

4.奥行き

○「奥行き」

 「奥」という言葉そのものを、私たちは日常語としてよく使っています。「奥様」「奥ゆかしい人」「奥深い考え」等…、「奥」という言葉には、深みがあり熟慮されていて、それ自体魅力を備えているように思えます。そして「奥行き」を形容詞として使った場合、例えば「奥行きのある人」「奥行きのある考え」という場合には、そのことがより鮮明になります。人物やその人の考えをひとつの空間になぞらえてその深さを表現します。
 奥行きのある空間といえば、たとえば京都などで現在も数多く残っている数寄屋つくりの家屋があります。数寄屋とはその字の通り、好きに平面を構成した家のこと(狭義には茶室を意味します)です。玄関を入り、取り次ぎの間を経て廊下を直進したり曲がったり、時折中庭の光に出会ったり、薄暗い場所を通過したかと思うと明るい広間に到達するや、目の前に美しい庭園が広がって、そのうち奥の間へと進んでゆく。ゆっくりと足を運んでいくうちに様々な室内の風景が心和ませ、その内部空間の豊かさにほっとしたりすることがあります。家屋の内部空間にあって、このような「家の奥行き」は、複雑なプランによって特徴づけるだけでなく、そこに住む人を豊かにし、家の内部空間をしっかりとした「場所」に変換してゆくのです。

○ 奥行きのある家

奥行きのある家は、前述のように平面的な空間だけでではなく、垂直方向にも適用できます。階段を上がって上階へと歩行を進める時に、室内の風景は人の視線の上方への移動、下方への注意よって様々に展開します。狭小敷地の三階建ての住宅などでは、ほとんど垂直方向への空間の展開と言ってもいいかもしれません。このことは、上階に展開する室内の構成を工夫すると、階段を通じて二層分、三層分の垂直方向の奥行きが得られることを示しています。従って奥行きのある家は平面的な広い敷地を必要とするのではなく、垂直方向を考慮する事によって小さな家でも可能なのです。

 一般的に人は、水平面での位置を認識するより、垂直方向の位置認識の方がはるかに劣っています。一階の部屋の位置は自然と理解済みなのですが、一階の部屋の上にどの部屋があるかを想像するのは難しいのです。同様に二階に居てその部屋の真下に一階のどの部屋や場所があるかをすぐには答えられません。上階をも含めた垂直方向の奥行きを手に入れるためには、上下階をつなぐ道線(人の行動ルート)に工夫が必要です。すなわち階段を含めた通過空間のデザインによって、上下階を有機的に結ぶ事が重要となってきます。階段室の吹き抜け空間をよりよく演出するのも一つの方法でしょう。又、そこでしか垣間見る事のできない室内や屋外の風景を取り入れるのも一案でしょう。ビルの中のエレベーターに隠れた階段室のようでは、自分がどの階にいるのか、どの当りにいるのかわからないばかりか、当然上下階のつながりを身体で認識する事などできないのです。 
 上階にあがっていく感覚を身体(視覚や筋肉の動き)で感じることが出来、しかも上の階の雰囲気が感じられたなら、下階とのつながりが意識され、二つの階が垂直方向に連続した空間となります。階段を取り巻く空間を工夫する事によって、垂直方向の奥行きが獲得できたなら、一階床面積の倍以上の、平面的な奥行きを確保できるのと同等以上の効果を手に入れることができるのです。

 「奥行きのある家」で人は、水平面を、そして垂直方向を「巡る」ことができます。巡るという行為によって家族の一人一人が家を経験します。そしてこの空間の経験が、家をかけがえの無い場所にしていくのです。水平面に垂直面に広がりと奥行きを見せてくれる住宅は、その大きさに関わりなく、住む人に豊かな空間を与えてくれるのです。

注目の建築家

ARCHITECT’S BLOG

建築家ブログ最新記事:RSS

某キッチンと洗濯乾燥機を使…

ナイトウタカシ

2024.11.21
昨日は、数年前に家づくりを一緒にさ...

建築家:ナイトウタカシ

某キッチンと洗濯乾燥機を使…

ナイトウタカシ

2024.11.20
昨日は、数年前に家づくりを一緒にさ...

建築家:ナイトウタカシ

某キッチンと洗濯乾燥機を使…

ナイトウタカシ

2024.11.19
昨日は、経年で変化して、魅力を増す...

建築家:ナイトウタカシ

住居棟(母屋)屋根部分葺き…

本井公浩

2024.11.18
横浜市青葉区プロジェクト [住居棟...

建築家:本井公浩

経年変化を愉しむのも魅力的。

ナイトウタカシ

2024.11.18
昨日までは、施主支給をする場合の ...

建築家:ナイトウタカシ

建築家ブログ記事一覧へ

ISSUE

how to use

建築家オウチーノの使い方

FAQ -よくある質問と答え-

専用フォームで24時間お問い合わせ受け付けます

一般の方、建築家の方、不動産会社の方専用フォーム

TRUSTe

このページの先頭へ