建築家・浪瀬朝夫さんのブログ「「家づくりのヒント」第十回」
「家づくりのヒント」第十回
2014/02/02 更新
○ 広がる空間
開口部のもう一つの効果は、その周辺にある空間に広がりを生み出すことでしょう。開口部を効果的に配置することによって外部空間を室内に取り込みますが、同時に室内の空間に広がりが与えられることは誰もが経験していることです。ここでは、窓のある部屋が広く感じるという以上の効果についてお話します。
家につけられた開口部は当然敷地の内側にあるのですが、敷地の内側の領域は自己の占有部分であるとの認識から、人はそこに警戒感を持つことはありません。家の開口部周辺では、その外側の空間を人が拡張できる領域と認識されるため開放感が得られるのです。例えば中庭が計画され、隣接敷地側に視線を遮る塀など設置されていれば、そこにできた外部空間は自己の安全が確保されているという自然な感覚から、開口部によってさらに室内の空間領域が拡張されるのです。このような外部空間の利用は、密集地や都心部での計画、コストの面から家の面積を限定する場合など効果的です。小さな家でも大きな広がりを確保することができます。開口部の外部への広がりは他にも様々な工夫によって利用可能です。例えば、狭い玄関でも換気をかねた窓を足元に設置すると、床に広がりを与えることができます。そこでは足元に光が入り込み、外部の地面を垣間見ることによって足元の空間が拡張されるのです。又、人の通過空間の先端に開口部を設けると、より一層の奥行きを空間に与えることができます。廊下の先にある窓の向こうに風景が広がっていれば歩行すら軽やかになるでしょう。効果的な開口部の配置には内部空間を拡張する働きがあるのです。
家族が成長するに従って子供たちもそれぞれ個性を獲得していきます。家族が共有している生活観に加え、それぞれの世代の時代精神によって個性もまた異なっています。最近は「家族」についての議論にいとまがありません。敷地内部に開放された開口部は、個人の領域を拡張する働きがありますが、それは又家族にとって共通の領域でもあります。そしてこの共通の領域には思わぬ働きがあります。例えば、食卓で思わぬ議論の果て重い空気が漂ってしまったとしましょう。二人あるいは四人、その間に垣間見る外の風景があれば、雲が抜けて日差しが入って街の風景が少し動いただけでも、心が穏やかになるかもしれません。テラスへ通じているなら、外に出て気分を変えることも可能でしょう。和やかさのきっかけになるかも知れません。世代の違いや考え方の違いによって、個人はそれぞれに微妙に異なる空間・領域を持っているのですが、家族の共通領域は、これらの相互領域の中間にあって緩衝地帯として働く場合があります。見慣れたなじみある風景や敷地内に計画された外部空間は、共通の領域として個人の異なる領域相互の間に入ってその境界をあいまいにし、時によっては融和させる働きがあるのです。開口部には空間を拡張させる働きとともに、個人の空間を相互に結びつける働きがあるのです。