建築家・浪瀬朝夫さんのブログ「「家づくりのヒント」第六回」
「家づくりのヒント」第六回
2013/11/01 更新
3.「場所」について
○経験と場所
私たちは仕事で移動したり、旅行をする場合、目的地を確認する為に地図を広げます。地図に示された目的地が、見知らぬ訪れたことのない街である場合は、早速インターネットで目的地を検索することもあります。現在ではネット上の写真や地図で街の風景や自然、山間なのか、海辺なのか瞬時に確認することできます。しかしながら、おおよその情報を得て漠然としたイメージを頼りに出発するのですから、目的地は、相変わらず単なる地図上の位置(ポイント)に過ぎません。しかし、過去にそこを訪れたことがあれば、ネットで調べるまでもなく風景が瞬時に目に浮かびます。そしてそこで誰かに出会い、何か心に残る出来事でもあったなら、その地図上の位置は私たちの脳裏でさらに明確になり、見知らぬ地図上の位置よりも身近に感じられるはずです。
人文地理学者のエドワード・レルフは「場所」と「位置」を区別して、個人の経験が単なる地図上の位置を「場所」に変える働きがあると述べています。地図上に広がる様々な地点、いわば無数の位置(北緯○○、経度○○として表記される)の一つに自分の身体があり、自身の経験を伴った「位置」は他の「見知らぬ位置」とイメージの中で区別され、まさに「経験」によって得られたその位置が自分にとっての「場所」に変化するというものです。
例えば、そこで生活した経験があれば、又それが長ければ長いほど、その場所はその人にとって思い出深い特別な「場所」となります。少年時代を過ごした場所、学生生活を送った場所、そして仕事で訪れ様々な出来事を経験した場所、それらは個人にとって人生の貴重な一部分であり、一つ一つの「場所」がその人にとって大切なものとなります。それらは明らかに地図上の単なる位置とは異なるのです。
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人は人生のどの時点でもどこかに居場所があり、何らかの目的の為に移動し、別のポイント(位置)で新たな経験を得、そのポイントを「場所」に変化させていると言ってもよいでしょう。私たちはそれぞれが、場所(経験)を得ながら日々過ごしているのです。