建築家・浪瀬朝夫さんのブログ「「家づくりのヒント」第三回」
「家づくりのヒント」第三回
2013/10/16 更新
1.「空間」という言葉
前回は「空間」についてお話しました。今回は「個人の空間」についてお話します。
○ 個人の空間
社会やそれぞれの地域あるいは組織、そして家族の基本単位は個人になるのですが、では個人の空間とはどのような性格のものなのでしょうか。先の「空間」の意味から言えば、個人の空間は、個人の身体のまわりに形作られていると言うことが出来ます。
たとえば、自分のデスクに座った時、手の届く範囲に気に入っている本やペン、スタンドを置き、仕事や趣味を楽しんだりする環境を作ります。様々な出来事を振り返ったり、思索を巡らして新しいアイデアを思いついたり、これからの未来を想像し、仕事の手順を考えたりと自分と向き合って自分自身と話す空間をつくります。明らかにそこは、自分の空間と考えることができるでしょう。そうした自分の為に整えられた空間でなくても、自分の空間を認識する場合があります。街角のオープンカフェ、テーブルについてお茶を楽しむ時、気に入ったカフェであればなおさらのこと、落ち着きと休息を得て、ちょっとしたひとときでも充実した時間を持ったりします。テーブルの周縁にはやはり自分の空間があると感じるでしょう。通勤を混雑した列車で過ごす時、又騒がしい街頭を歩いている時、見ず知らずの人の極端な接近に出会うと身をかわしたりします。何らかの方法で自分を守ろう、自分の居場所を確保しようという本能が働きます。広がりのない、狭められたと感じるような空間でさえ、そこに自分の空間があるのです。
このように人は、自分の身体のまわりに空間をめぐらせ、しかもどこへ移動する場合もその空間をある意味たずさえて移動しているといえます。事物の専有によってその周辺に空間が発生するのと同じく、個人の空間は自分の身体を中心として存在し、常にその人と共にあって分けることが出来ないものなのです。
☆☆☆☆ 余談
街に人だかりがあって、不思議に思い近づいてよく見ると、有名人が大勢の人に取り囲まれています。彼のそばには関係者が居ますが、その人だかりは彼を中心に大きな同心円を描いてぽっかり空いています。彼が発するオーラとでも言うべき独特の空気が、一般の人たちをそれ以上近づけさせないのでしょう。その同心円状の空間を彼は自分の空間であると感じているはずです。そして又、大勢の人達が「彼の空間」を無意識に認識している場面でもあるのです。