建築家・浪瀬朝夫さんのブログ「「家づくりのヒント」第二回」
「家づくりのヒント」第二回
2013/10/12 更新
第一章 空間・領域・場所
人を取り巻く環境(空間)は、自然や建物、交通などの物理的な要素に、その時々の気分や置かれている立場、あるいはその人の体験といった個人的な要素が付け加えられ全体を形成していると考えられます。それは、人それぞれがどこにあっても日々考え感じながら生活している生身の人間だからです。従って、ここでは物理的な環境としての「家」について具体的にアプローチする前に、人間の「空間」にはどのような特徴があるかを考察し、後の「家」への理解に役立てることとします。
1.「空間」という言葉
○「空間」の意味
日常生活で、空間という言葉を使うことはめったにありませんが、建築と空間は切っても切れない関係にあります。建築空間というのと同様、空間という言葉は都市空間とか、宇宙空間というように熟語としては多く使われています。最近では文学の中の空間とか、政治空間、パソコン内のバーチャル空間(仮想空間)などよく耳にします。私たちも、スケッチを前にクライアントにデザインを説明する場合、この「空間」という言葉を使ったりします。この「空間」という言葉は、よく使われるどの熟語にも共通する言葉でありながら、実はクライアントにとって最初に遭遇する、専門用語にも聞こえる慣れない言葉、しかしもっとも重要な概念のひとつなのです。
「空間」をもっとも端的に説明したのは、古代の学者アリストテレスです。彼は空間を次のように定義しています。「空間…あるものによって占められている容積のまわりを、外部から境界づけられている、その内側を示す。」と。この定義が非常に分かりやすいのは、空間には事物が必要で、空っぽの空間はありえないということです。文学の中には登場人物がいて背景があり、一冊の本の中にはそれ独特の空間が広がっています。又、政治の世界では議論の対象があり、その対象を取り囲む空間の中に政治家達や当事者がいて政治空間があるといえます。インターネットの中には情報を取り囲む空間が存在します。都市空間は都市の施設を中心とした空間を意味します。そして「住空間」という場合、住まいの中心となる個人や家族そのものを取り囲む空間があるわけです。
このようにして「空間」を理解するなら、そこここで使われ、今まで何やら不可解なままうなずいていた「空間」という言葉が、明瞭になってくるのがお分かりいただけると思います。事物があるところに空間は発生する、逆に言えば「空間」を感じるところには何らかの事物が存在する。目に見えるもの、見えないが感じるものなど、私たちの周囲にはたくさんの空間が存在するといえます。
それでは人の空間とはどのようなものなのでしょうか。
次回は「個人の空間」についてお話します。