建築家・西島 正樹さんのブログ「【人の絆を育む家】-1」
【人の絆を育む家】-1
2014/11/06 更新
これまでマスメイディアで書かせて頂いた原稿を、順次HPにUPすることにしました。
プライム ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/prime/nishijima/profile/profile.html
左下の【家づくり 大切なこと】をクリック下さい。
こちらのコラムにも合わせてアップします。
まずは、
【人の絆を育む家】 (初出 住宅新報2012年3月6日号)
(原稿が長いので、段落毎にアップします。)
3.11大震災は、私たちの心に人と人との絆の大切さを深く刻むこととなりました。家は、家族の生命と財産を守
る場であるとともに、家族の絆を深める場であってほしい、多くの方がそう感じているのではないでしょうか。
絆を育む家とはどういう家なのか、そもそも家にそのような力があるのか。人間の心に関わるこの問題に対して、
住宅はいかにこたえることができるのでしょうか。一緒に考えていきましょう。
1. 人間の内面に影響を与える建築空間
家を建てる時、みなさんは何を大切に考えるでしょうか。構造の安全性、便利さや使いやすさ、断熱や空調の性能などいろいろなことが思い浮かびますが、これらのことはたいてい数値に換算して評価できます。しかし、人の絆というものは数値化できません。この曖昧模糊とした「心の問題」にそもそも住宅や建築は対応できるのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。まずこの点から考えてみます。
最初に思い起こしたいのは、人間は環境の影響を受けるということです。よく「子どもにはよい教育環境を」などといわれますが、ここでいう「環境からの影響」とは、物理的・身体的な影響はもとより、感情とか気持ちといった精神面への影響を意味します。その影響の積み重ねが、人間がものごとを考える基盤となる内面世界の形成にまで大きな影響を与えることを警鐘を込めて語っているわけです。
私たちは多くの時間を建築空間の中ですごしており、建築空間が「環境」の重要な一部であることは確かです。一つの部屋の扉や窓の配置、部屋の大きさや他の部屋との位置関係、そういったこと全てが、私たちの視覚世界を形づくり、行動を規制します。私たちは目の前の建築の姿を前提として毎日の生活を築いていかざるを得ないのです。こうして建築空間は動かしがたい一つの環境として、私たちの内面に働きかけ、内的世界の形成に影響を与えていきます。人が複数になると、双方の関係に及ぼす建築の影響は個人の意識を超えてさらに大きくなります。自分と相手がともにいる場が快適であれば、ともにすごす時間はよりよいものになり、逆に不快な場だとそれだけでいい関係を結びにくくなります。家族が毎日をすごす住空間のあり方は、お互いの関係形成に影響し、ひいては家族の絆という内面的な営みまでも変えてしまう力を持っているのです。
(つづく)