ワンニャンペット共生住宅

ペットだって家族の一員――愛犬家や愛猫家の中には、そう考える人も多いことでしょう。そんな大切な「家族」と暮らすための住まい、いわゆる「ペット共生住宅」のあり方に、近年、注目が集まっています。今回は、豊富なアイデアと経験を持つ建築家が、理想のペット共生住宅について存分に語ります。

  • 愛犬のための住まい編
  • 愛猫のための住まい編
  • 動物行動学からみる家づくりインタビュー

ペット共生住宅の専門家として海外でも知られる、建築家・廣瀬慶二さんが語る
動物行動学から見たペット共生住宅のあり方

当然のことながら、人間はペットと言葉を交わすことができません。それゆえ、一見犬や猫にとって快適そうに見える空間でも、彼らにとっては実はそうではなかったり、またはその逆のことが起きている可能性があります。では、ペットにとって本当に快適に暮らせる住まいをつくるにはどうしたらよいのでしょうか。その答えのひとつに「動物行動学」があります。このページでは、「動物行動学」の観点から、ペットとの共生のあり方を考え続けてきた建築家・廣瀬慶二さん(ファウナ・プラス・デザイン)に話を伺いました。

ペットと暮らす住まいのデザイン

ペット共生住宅の専門家として活躍中の廣瀬慶二さん。上写真他写真はすべて著書「ペットと暮らす住まいのデザイン」より

―犬と暮らす飼い主にとって、無駄吠えやトイレの失敗など、いわゆる「問題行動」に悩む人が多いようです。これを動物行動学の観点から考察して、住宅の設計やデザインを用いて解決する方法はあるのでしょうか?

まず、最初に説明しておかなくてはいけないことがあります。無駄吠えや不適切な場所での排泄行為は、犬の本来の行動様式からそんなに逸脱したものではないんです。つまり多くの人が、家庭内で「問題行動」とよぶものは、飼い主が困っているだけのことで、本当に問題となる異常な行動はまれです。だから家との関係でしゃべるなら、問題行動というよりは「しつけ•マナー」の話としてとらえたほうがいいでしょうね。
そこで、僕はいったい何を調べたり研究しているのかというと、ついつい面倒なので「動物行動学」と言ってしまっていますが、正確にはいろんな飼い主さんの家にお邪魔するフィールドワークで、人と犬の生活について行動を分析しているんです。B.F.スキナーの「行動分析学」を念頭において、各家庭の犬と人間の生活実態を図面にして把握したり、行動を予測したりしています。もうかれこれ10年以上続けていますね。5年前からは中央動物専門学校の動物共生研究科の学生と一緒にやっていますから、結構な情報量になってきました。だから、犬との生活に不都合がうまれてしまう住宅のパターンをかなり知っています。そこを改善していけば、きっと不都合は減りますよね。

―と、いうことはデザインで問題行動が解決できるということですね?

いやいや、そんな手品のように簡単にはいきませんよ(笑)。ちょっと乱暴な説明になりますが行動分析の基礎をお話しましょうか。人でも犬でも、行動の直後に好ましい事(強化子)があると、その行動を繰り返します。そんな時には、「きっかけ」→「行動」→「強化子の出現」という一瞬でつながる流れが必ずあって、これを「強化随伴性」とよびます。この行動の内容には「善い・悪い」は関係ありません。それから、強化子は行動の起こる頻度を増やす刺激のことですが、「おやつ」のようにわかりやすいもののほか、直接的じゃないものも強化子になり得ます。
そんな前提があって、人と犬との暮らしぶりをみていくと、結構多くの飼い主さんが、望んでもいない犬の行動を「強化」していることを発見できるんです。家の間取りが原因になっているものもあります。そういうのを1つずつ拾っていってデザインすることが大切なんですけれど・・・。

―もう少し具体的に言ってもらえませんか?とりあえず「犬のトイレの失敗」を建築でどうすればいいか?ってところをお願いします。

不適切な場所での排泄は、マーキングや病気じゃないなら、トイレの場所を犬にしっかりと教えきれていないことが原因です。飼い始めの頃のトイレがうまくできた時に、飼い主がそれを上手に「強化」できなかったのでしょう。そして、間違った場所での排泄が繰り返えされると、飼い主はペットシーツで部屋の床や壁をガードすることがあります。家中をペットシーツだらけにする飼い主のみっともない行動は、逆に、犬の排泄によって強化されていますよね(笑)。これは家を汚されることからの回避行動ですから「負の強化」になるわけですが、興味のある方は「オペラント条件づけ」を勉強してみてください。
デザインでこの問題をサポートするなら、あきらかに人も犬もそこがトイレだとわかるような場所を、防水工事を含めてきちんと造って、トイレがうまくできればすぐにほめて、トイレのマナーを強化してあげられる設計をすればいいんです。犬は家族だっていうのなら、設備として専用のトイレを作るべきですよ。それから、もし犬がトイレを失敗しても犬を叱ってはいけません。さっき説明した随伴性は一瞬の流れなんで、叱っても遅すぎて犬には意味がわからないんです。だから消臭•除菌を含め、そこをすみやかに清掃して無かった事にする方が現実的です。足もとにはできるだけ丈夫な建材を使うのがよいでしょう。人が介入しやすい、犬にしてほしい行動を強化しやすい環境を作ることが大切です。それは、難しい話でも何でもなくて、暮らしの中で犬をほめてあげるシーンをうまくイメージできれば簡単です。

―普段からドッグフェンスなどを家の中で使っているご家庭が多いと思います。既製品のドッグフェンスは使い勝手があまりよくなく、デザイン性も乏しい物が多いようです。廣瀬さんが設計する住宅の場合、ドッグフェンスなどはどのようにしているのですか?

さまざまな理由により犬に入って欲しくない場所はあります。例えばキッチンなどでは床に落ちた食材を食べて中毒をおこすこともありますから、市販のドッグフェンスを使っているご家庭は多いですね。このドッグフェンスは、乳児用のベビー・フェンスと同じなんです。だから使用される期間は長くても3年くらいで考えられているんじゃないでしょうか。当然、デザイン性や耐久性に配慮した製品は少ない。ドッグフェンスは市販品ではなく、建築家が建具の1つとしてデザインして製作するのがいいと私は思っています。たとえば、市販のドッグフェンスは、出入りする度に開閉が必要なのでちょっと不便です。私は以前、高さを2段階に使いわけできるように上下に分割されたフェンスを作ってみました。低いフェンスだけの場合は人間がひょいとまたげるような高さになっていて、犬も本気を出せば飛び越えられるのですが、飼い主が見ていれば飛び越えません。そして全部を閉じると、完全に遮断できるので留守番をさせる時には重宝します。市販品のドッグフェンスはまだまだ飼い主の多様なニーズに応えきれていませんね。ドッグフェンスは建築家が自由な発想で面白くデザインできるものの1つでしょう。

―猫の場合、犬とは違った要素が求められますよね。重要なポイントはどのようなところなのでしょうか

猫は人間が思っている以上に、さまざまな変化を敏感に感じ取る生き物です。ですから、その変化を確認するために少しでも高いところに移動して周囲を見下ろそうとします。何に対しても無関心に見える猫もいますが、これはもしかすると、肥満のせいで身体能力が低下しているせいかもしれないし、環境が退屈すぎるからかもしれません。今、猫の完全室内飼育は常識になっています。今を生きている猫の大半は、これから先の生涯を家の中で過ごすのですから、飼い主は、十分な運動をうながすように遊んであげないといけませんし、猫と一緒に遊ぶためには、立体的な動きができるような空間を整えてあげる義務があります。2、3匹なら市販のキャットタワーで十分かもしれませんが、多頭飼いの場合にはなかなか工夫が必要です。

―多頭飼いの施主さんがいらっしゃるということですが、何匹くらい飼っているものなんでしょうか?その場合には工夫がいるとのことですが、具体的にはどういったことをすればよいのでしょうか?

僕はかなり特殊な人だとおもうので、10匹くらいじゃ驚かないし、そのぐらい居てくれないと張り合いがないんですよ。今なら、20匹以上いても、全然問題がないような家を設計できます。ただ、20匹以上の世話をするとなると、飼い主さんは人生を猫に捧げている状態になると思いますよ。僕のクライアントは立派な方が多いので、しっかりと猫の世話をされていますが、見ていて本当に重労働だと思います。だから、ちょっとでも世話が楽になるような工夫を考えていますね。それから多頭飼育の場合に大切な事は、とにかく空間を余すことなく使い切ることだと思います。個体群密度の調整とよんでいますが、人間が使える床面積は限られていても、猫にとっての床面積は、その身軽さゆえに、空中のキャットウォークやロフトなどでかなり増やすことができます。ここが腕の見せ所ですね。
それから、自宅で保護活動をしていて、シェルターの用途が必要な場合には、特別な間取りを提案しています。譲渡がうまくいくような工夫と、これから里親になる人に、猫に必要な「環境エンリッチメント」がわかる空間を作っています。

―最後に、ペットと共生する家を考える上で、飼い主はどのような心構えを持つべきなのでしょうか?

「ペット共生住宅」って、普通の家に便利そうなペット用の設備やペット用の建材を使っただけのものが未だに多いと思います。それはそれでいいと思うのですが、私たちが知っている「普通の家」って結構歴史が浅いものなんですよ。犬や猫をテーマに家づくりを考えるなら、もっと多様性があっていいと思います。だから一度、「普通の家」ってやつを疑ってみればいいんじゃないかなぁ。犬の家なら犬は土足なんだから、人間も1階だけは土足で暮らせるようになっていてもいいと思うし。猫の家なら猫が屋内でおもいっきり遊べるようにジャングルジムをつくって、そのせいでお金が足りないっていうなら、極端な話、リビングルームなんて無くしちゃえばいいんですよ。いちいち名前がついた部屋なんて、本当は別にいらないでしょう?だけど、どうすればいいのかわからないなんていう時に、お役に立てるのが我々建築家です。すっごく楽しい、見たことのないようなペットと暮らすための家を一緒に建ててみませんか?

廣瀬慶二さん

1996年 神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。
一級建築士、一級愛玩動物飼養管理士。
住まいのリフォームコンクール国土交通大臣賞受賞。
ペット共生住宅の専門家として海外でも知られ、猫の環境エンリッチメントを実現した「猫の家 The Cats' House」はアメリカ、カナダ、ブラジル、イギリス、フランス、スイス、中国の新聞や雑誌で紹介された。
http://www.catshouse.jp/

ペットと暮らす住まいのデザイン

「ペットと暮らす住まいのデザイン」(丸善出版)
長年のフィールドワークと行動分析に基づいた、「ペット共生住宅」のデザインノウハウが豊富な図面と写真で紹介されている。あたらしい「犬のしつけの入門書」としても読むことができる行動学と建築が融合したはじめての書籍。

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