“顔が見える関係”から生まれる「愛着を持って語れる家」
橋本頼幸(こま設計堂)
建築家に相談することは、一般的には「おおごと」かもしれない。だが、新築だけでなくリモデルやリノベーションなど、家に手を入れていくことも普通になった今、相談は「何をどう建てるか」だけではないだろう。こま設計堂はそんな建築との新しい付き合い方を考えさせる。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──若き日はオーケストラに所属し、海外でも演奏されていたと伺いました。建築の道に進んだのと関係があるのでしょうか。
演奏旅行でオランダのある家に3日間滞在させてもらったことが、建築家になる最大のきっかけになりました。その家のお父さんと話していて、学校で建築を学んでいるというと、彼が築100年くらいになる「わが家」のことを次から次へと嬉しそうに話してくれるんですね。で、「いい家をお持ちですね」と言ったら、「いや、賃貸です」と。持ち家じゃないのに、ここまで愛着を持つことなんて日本ではまずない。気に入った家に住むことって素敵なことだなあ、と思ったわけです。
──家づくりではどんなことが重要だと考えていますか?
「顔が見える」ということに人一倍気をつけています。地盤調査・改良、大工、左官、仕入など、家づくりにはたくさんの人が関わっているわけですが、工程の最初の頃に必ず関係者が一堂に会する全体会議を行い、施主にも必ず出席してもらって、施主にはチーム全体を、職人には施主の顔をしっかり覚えてもらうようにしています。そうすることで、施主もどこを誰が作ったのか、後々まで愛着を持って語れるようになるし、職人も「この人のために作る」という意識が生まれてモチベーションが高まるわけです。
──確かに顔が見える関係だと、なんでも言いやすいですね。
「こま設計堂」という名前も、こまかいことでも何でも相談したり、小間使いのようになんでも言ってきてほしいという意図をこめています。たとえば、スーパーの帰りに、家で気になっていることを建築家に言ってみようか、というようなカジュアルな関係がいいですね。作り手と使い手の距離を縮めておけば、リノベーションでも、闇雲に手をつけるのではなく、新築と比較してどんなメリットがあるか、コスト的にどれくらい有利かなど、総合的に説明できます。
オランダの話もそうでしたが、「建てる」「持つ」だけが家の楽しみではありません。賃貸したり、一部に手を入れたりも含めて、もっとフレキシブルに空間を楽しむことを提案していきたいと思っています。
橋本頼幸(こま設計堂)
大阪出身。1996年大阪市立大学大学院 工学研究科 建築学専攻 前期博士課程(修士)修了。石井生活環境設計室勤務。2003年大阪市立大学大学院 工学研究科 建築学専攻 後期博士課程(博士)修了。2003年 こま設計堂 設立。