街や社会につながっていく「家づくり」
渡辺ガク(g_FACTORY建築設計事務所)
「家は自分だけのものではない」と言えば、反発する人がいるかもしれない。だが、ひとつの住宅が、家族や地域社会、周囲の環境や景観につながっていると考えれば、決して間違った言い方ではないだろう。渡辺氏は「家づくり」にも、そんな考え方が必要だと語る。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──コミュニケーションを非常に重視しているんですね。
家は住む人のパーソナリティーそのものだからです。だから、住宅の場合は、お店やオフィスと違って、ある程度プライベートなことも含めて何でも話し合って互いに理解を深めながら進めたい。家の中でご夫婦が、ご家族が、どんなふうに過ごしているのか、これからどんなふうに暮らしたいか、といったことまで、なるべく多くの情報を持って、それを考慮して設計した方が、気持ちよく過ごせる家になります。
──実際に「こんな家はどうですか」と提案する前段階として、ですね。
打合せはとても重視しています。長いスパンでコミュニケーションを重ね、こちらも本音を話して、互いに「通じ合う」というところまで持っていくことが大事ですね。イメージとして、私は、家ができてしばらく経った後でも、気軽に訪ねていけるくらいの人間関係をつくれればいいな、と思っています。そんな信頼関係ができれば、10年、20年でなく、ずっと気に入って住める家が作れるはずです。
──「長く住める」というのはリノベーションの考え方にも通じます。
家を、モノ=商品として見れば、「資産価値がなくなったから解体しよう」ということになり、結果的に「作っては壊し」になってしまいます。対してリノベーションは、既存住宅の中から「新しいものにはない価値」を見つけることです。ただ、古い家をピカピカにするのではなく、古い建物の価値を自分で見極めること。これはすばらしい発想の転換だし、建築家として、とても興味をそそられます。
──新築とリノベーションの違いは大きいのでしょうか。
設計するときに、元の構造という制約があることがリノベーションの特徴ですが、「制約がある」という点では、新築も一緒なんです。予算や周辺環境、敷地など、いろいろな制約がある。だから、私の中で新築とリノベーションで明確な線引きはありません。どちらも、制約をクリアして、与えたれた条件を最大限に活かしていくのは同じです。
──環境に負荷をかけないという点も重要ですね。
周辺環境だけでなく、家というものは、街並みから社会へと、すべてにつながっているという感覚を忘れないようにしていきたいと思っています。住宅作りが、家族や地域、社会の絆を守る責任を負っている、つながりの始まりであるということ。今回の東北地方太平洋沖地震で故郷の地が被災したこともあり、最近はこういうことをより強く意識するようになりました。
渡辺ガク(g_FACTORY建築設計事務所)
1971年 岩手県盛岡市生まれ。 1993年 東京デザイナー学院スペースデザイン学科 卒業。 1993年-2007年 瀬野和広+設計アトリエ 勤務。 2007年 g_FACTORY 建築設計事務所 設立。