「感覚」を描くことから設計が始まる
鵜飼昭年(AUAU建築研究所)
クライアントの要望を聞いたら、「絵コンテ(マンガ)」を描く。一見、ちぐはぐに感じる人もいるかもしれない。しかし、これが鵜飼氏の流儀だ、「絵コンテ」だから、内装や部屋の雰囲気だけでなく、人物の動きや表情まで、すべてが描かれる。このように実際の暮らしを描くことで、要望を整理するだけではなく、感覚に訴える家づくりが可能になるのだ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──いい家をつくるために大切なことは何ですか?
家を決める要素は、土地、街、敷地、クライアントの四要素だと考えています。当然、クライアントの要望はお聞きしますが、できるだけ環境や立地を活かして、そこでしか作れないものを作りたいですね。
──どんなふうに要望を聞いていくのでしょう。
要望はもちろんすべてお聞きしますが、一方で、要望は言葉に過ぎないということを忘れないようにしています。
クライアントが自分の要望を話しているようでも、ハウスメーカーの言説やテレビの情報に影響されていることもありますよね。それに言葉だけの要望には、「未来」が含まれていません。将来のことまで見通しを立てた要望、というのはなかなか難しくて、例えば子育て中の家庭の要望をそのまま聞くとただの「子育て住宅」になってしまうわけです。
だから、建築家としては、言葉をそのまま受け取るのではなく、その中にある本当のことをくみ取っていきます。その上で、子供の成長による家族間のコミュニケーションの変化など、将来の暮らしも考えていきます。
──そんな言葉にならない部分をどう提案に入れるのですか?
打ち合わせを重ねて、クライアントのことがある程度わかってきたら、僕は絵コンテを描くことにしています。
家族形態によって、家の中で団らんしている様子とか、夫婦の朝食の風景とか、描くものはバラバラですが、部屋の明るさ、光の差し方、空気の柔らかさといったことから人物の表情まで描き込んで、入念に絵コンテを描きます。それから「こういうシーンを作るには」と考えてプランを作っていくわけです。
──言葉だけではダメなんですね。
論理も大事ですが、論理だけのものづくりというのは不毛ですね。思わず駆け上がりたくなる階段やなんとなく座ってみたくなる段差など、理屈じゃなく、住み手の心を誘ってくれるようなデザインこそ大切だと思っています。
そんなふうに心で感じることがあると、子供の目もキラキラしてくるし、お父さん、お母さんも暮らしの中に発見が出てくる。こちらも見ていて幸せを感じます。
この仕事をしていてよかったと感じる瞬間です。
鵜飼昭年(AUAU建築研究所)
1967年 愛知県生まれ
1990年 愛知工業大学工学部建築工学科卒業
1997年 大阪大学大学院修士課程(工学修士)修了
1997年 東 環境・建築研究所勤務
2000年 AUAU建築研究所設立