「解き方」を考える努力は惜しまない
角倉剛(角倉剛建築設計事務所)
住む人の要望を聞いて家をつくる建築家にとって、「自分のスタイル」とは何だろうか。さまざまな住宅を作っていれば自然と「あるべき家」のようなものができてくるかもしれない。しかし、角倉氏は、そんな先入観を持たず「ゼロから顧客目線で考える」という建築家の役割を強調する。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──「理想の住宅像」はあえて持たない、とお聞きしました。
いろんなお客さんに会う度に、どんな家がいいかを真剣にやりとりし、常にその人、その条件に合わせたベストな働きをしたいと思っています。だから、住宅はこうあるべきだ、といった先入観や自分のスタイルのようなものは、できるだけ持たないように気をつけているんです。
──確かに、型にはまることの危険性はあるかもしれません。
そうならないよう、「お客さんだったらこう感じとるだろう」ということが、イメージできるようになるまで、何度も打合せをすることも大事です。設計中には、いろいろと判断する場面が出てくるのですが、たとえこちらの勝手なイメージにすぎないにせよ、「あの人ならこう思うだろう」という感覚は大切な判断材料となります。
──そこまでお客さんの考えを頭に入れるのは大変ですね。
いえ、そうでもなくて、私はもともと考えるのがとても好きなんです。特に住宅設計は、暮らしや生き方といった人間の「根っこの所」につながっています。そこが面白いところで、設計は、単に目に見える建物のデザインや形を考えるのではなく、それを通じて人の生活や人生を考えることになるわけです。設計図にたった1本、線を引こうにも、その意味や意図というものがないと、引けないものなんです。
──具体的にはどうやって考えを深めるんでしょうか。
とにかく案をたくさん作ることです。「これがいい」という案ができても、それで終わりにせず、さらに他の案を出してみる。一見無理があると思われる方向性も、とりあえずは検討してみたり、という具合ですね。間口を広くしておくために、自分の思いであろうと徹底して疑ってみる視点を持つよう努めています。
──常にベストな案を探しているんですね。
私のイメージでは、設計の進め方とは、将棋でいう「戦法」や数学の問題でいう「解き方」みたいなものです。「戦法」や「解き方」はひとつではなくいろんなものがあるわけですから、多分これが「ベスト」と思える、スッキリした「解き方」を見つけ出すことを心がけています。しかし、少し考え方や前提条件を変えるだけでその「ベスト」と思えるものも変わっていきます。それが面白いところでもあり、大変なところでもあるのですが、旅先でも町並みを観察したりして、手持ちのカードを増やしていくよう心がけています。
角倉剛(角倉剛建築設計事務所)
1966年 大阪生まれ。 1990年 東京大学建築学科卒業。 1992年 東京大学工学系大学院建築学科専攻修士過程修了。 1992年 日本設計勤務。 1994年 アプル総合計画事務所勤務。 1999年 THT Architects.Inc設立。 2005年 角倉剛建築設計事務所設立。