「これがやりたい」の気持ちに本気で付き合う
清水義文(SOU建築設計室)
家づくりにおいて、施主の仕事は「こんなふうにしたい」という要望を出すこと。プロの建築家であっても、ここだけは口を挟めない「聖域」である。ところが、現実に建築家と打ち合わせをすると、さまざまな条件や制約のほか、利便性や実用性といった観点によって、すっかりカドが取れたプランになってしまうことも多い。こんな状況に強く異を唱えるのがSOU設計の清水義文氏だ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──まずプロフィールを教えてください。
1969年、福岡県生まれです。学校を出てから設計事務所に務め、2006年に事務所を開設しました。事務所名の「SOU」というのは、「蒼穹万里」という言葉からとっていまして、「家が完成して引き渡しをするときは、どこまでも続くような青空の日に、新居に光が燦々と差すなかで、カギをお渡ししたいなぁ」という感じを込めています。家づくりって最初の打ち合わせから2、3年かかって完成、ということもありますからね。そういう万感を込めて引き渡しをしたい、と思っています。
──施主の「満足度」がテーマと聞きました。
家づくりには、予算や法律、技術といったさまざまな制約があって、要望がすべて叶わないこともたくさんあります。しかし、どれを優先するかをしっかり考えていければ、「満足のいく解」を作り出すことは充分可能です。
──たとえば、どんなふうに考えるのでしょう?
「いらないものはいらない」という施主の声は大事ですね。優先順位の低いものはさっと諦めて、優先順位の高いものに集中させます。
極端なケースで言うと、「車が好きで、尚且つ映画をものすごく見る」という人がいたら、まず、ガレージやホームシアター等の優先順位の高いものに集中します。そこから、その人がほとんど料理をしないなら、キッチンは簡素にしたり、お風呂が好きじゃなかったらお風呂をやめてシャワーだけにしたり、といった具合でいらないものは削ることで「満足のいく解」を作りだします。
もし完成後に、友人や実家の親が訪ねて来て「なんでこんなふうにしたの?」と言われたとしても、住み手が満足しているのならそれでいいんです。
──専門家として「おすすめできない」と思うこともありませんか?
私はお客さんの価値観、「これがやりたい!」という思いに、とことん本気で付き合いたい。まわりの人から「ヘンだ」「フツーはやらない」と言われることであっても、です。
──施主になりきるわけですね。
はい、そうやって最終的に目指すのは、パッと見たとき、建築家の顔がチラつくような家じゃなくて、「○○さんらしいね」「これこそ○○さんの家だね」と言われるような家です。人間の多様性こそがいちばん大切だからです。
清水義文 (SOU建築設計室)
1992年 日本大学工学部建築学科卒業
1994年 日本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了
1994年 株式会社メッツ研究所 研究員
1997年 株式会社中村勉総合計画事務所 設計主任
2006年 株式会社SOU建築設計室設立 代表取締役