A案から始めてZ案まで考える「街並みとの融合」
斎藤修一(株式会社SAITO ASSOCIATES)
好きな言葉は「熱い心」です――。ベテランならではの重みのある発言の中に、こんなシンプルな言葉が飛び出す。「いい家を作るために大切なものはいろいろあるけれど、まずは熱い心でないと。『熱心さ』が一番大事なんです」。単に要望をかなうだけに留まらない「いい家」とは? 家づくりのテーマを聞いた。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――竹中工務店時代から数々の受賞歴がありますが、印象に残っているものはありますか?
事務所創立後、2009年の住まいのリフォームコンクールで国土交通大臣賞をいただいた「OGGI(オッジ)」という家ですね。ある企業の社宅を賃貸用の集合住宅にリフォームしたものです。周辺ののどかな住宅地の雰囲気ともなじんでいて、今でも6世帯すべてが埋まる人気ぶりです。狭さを感じさせないために、外部環境を活かした空間づくりを意識しました。
――家の内部だけでなく、外部環境とのつながりも考えるのですか?
そこが大事なところです。私は、建築家の仕事には2つの役割があると思っています。ひとつは「いい内部空間をつくること」。ふたつ目は「いい街並みをつくること」です。内と外、この両面を意識しないと、いい家はできません。
――街並みへの影響を考えるということですか?
建て主は、自分の夢や理想のライフスタイルを追求してもらえばいいんです。私もまず「○○がほしい」という要望をうかがって、最大限に実現しようというところからスタートします。
ただ、家づくりには街並みに対する責任もあります。ひとつひとつの家がいいから、いい街並みができる。街並みがいいから、またいい家ができる。家と街並みにはこのような関係があります。だから住宅は住み手にとって「いい家」なだけではなく、前の道路を通りがかった人にとっても「いい家」でなければなりません。その場の街並みを観察すれば、これから建てる家がどんな“顔”を持てばいいのか、見えてくる。
このように、要望をかなえるだけでなく、外部との関係まで考えて提案するのが建築家の役目ですね。
――たとえばどういったことでしょうか。
単純な例で言えば、「リビングをどこにつくるか」といった間取りもそうです。常に南向きがいいとは限らず、敷地によっては北の日差しも意外とよかったりする。そんなときは、南向きがA案、北向きがB案……という具合にケーススタディーをして、敷地のポテンシャルが最大限に発揮できる間取りを徹底的に考えるわけです。
――なかなか根気のいる作業ですね。
A案から始めて、Z案まで行っても、まだ終わらないこともあります。大変ですが、「熱心」だからできるんです。
斎藤修一(株式会社SAITO ASSOCIATES)
新潟県出身、芝浦工業大学工学部建築学科卒業、株式会社竹中工務店設計部にて多数の建築設計を担当。2006年、SAITO ASSOCIATES設立。CEO就任。代表取締役。