「言葉にならない感覚」を探していく
小野寺義博(オノデラヨシヒロ建築設計室)
家をつくるのは一生に一度のプロジェクト。だから、できるだけ楽しみたい。建築家にはその楽しみを演出する役目もあるだろう。「言葉以上に、フィーリングを重視したい」と語る小野寺氏から伝わってくるのは、施主の感性に合わせて、楽しく新しいものを生み出そうとする姿勢だ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──旅行に行くのがお好きなのですね。
子供のころから積み木や紙パックで家をつくったりしていて、今も仕事というより趣味で、建物や街並み、風景などを見るために暇さえあればブラブラと出かけていきます。気持ちのいい通りを歩いていたりすると「こんな感じを建物で出したいなあ」と思ったり……。物心ついたときからずっと「空間」というものにのめり込んでいるんでしょうね。
──そういう体験が施主さんへの提案にも生きてくるのでしょうか?
旅で見たものは、自分の中で醸成され、結果的に自分の中の新しい引き出しにはなっていますね。この施主さんには、いつか見たあの空間の雰囲気が提案できそうだ、この敷地にはあの街の雰囲気が似合いそうだな、というふうに。提案は自分の個性を出そうとするのではなく、ラジオをチューニングするように、施主さんや敷地に合う感じ、フィーリングを探していくという感覚です。
──打ち合わせではどんなことに気をつけていますか?
リラックスしてざっくばらんに話をしてもらって、要望をできるだけ多く出してもらう。これは基本として、その上、言葉にならないもの、感覚を探していくことが大切だと考えています。空間というものは人によって感じ方が違うし、空間設計の方法も無限にある。だから、言葉だけですべてを表現することはできません。つまり、言葉だけでやりとりしていると要望はかなわないのです。だから、言葉だけじゃなく、施主さんの反応や表情、服装、話し方といった言葉にならないものから、施主さんの感性を探っていこうと努めています。
──要望はどんなものでもいいのでしょうか。
漠然とした希望であれ、わがままであれ、どんどん言って下さい。空間づくりには無限のパターンがあるし、建築家はアイデアをいくらでも出すことができますから。
──これまでの施主さんの要望の中で、印象に残っているものはありますか?
クリニックを建てるとき、「カラフルな空間にしたい」と言われたことですね。これには戸惑いました。色をあまり使わないのが私の作風だったので。でもそのとき、逆に「面白いからやってみよう」と思いました。最終的に、バランスが崩れないギリギリまで色を使って、満足してもらえる建物をつくりあげました。面白いことに、この建物を作ってからは、自分でも色をよく使うようになりました。こんなふうに、施主さんから影響を受けて、自分が思ってもみなかった建物が生まれることも、この仕事の魅力ですね。
小野寺義博(オノデラヨシヒロ建築設計室)
1971年 埼玉県生まれ。 1995年 芝浦工業大学工学部建築工学科 卒業 アトリエ系建築設計事務所を経て 2004年 一級建築士事務所 オノデラヨシヒロ建築設計室 設立