与えられた条件を最大に活かしてつくる「世界に一つの空間」
西尾昌浩(アトリエGivens一級建築士事務所)
「条件をクリアしないといけない」というと、やりたいことができないといった印象を持つかもしれない。だが、その場所の気候や敷地が、世界にひとつしかないことを思えば、条件は「与えられた恵み」としてとらえられないか。西尾氏の考え方を聞いていると、そんな気がしてくる。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──事務所名の「アトリエGivens」とはどういう意味ですか。
givenというのはgiveの受身形からとったもので、「与えられたもの」という意味です。お客さんの希望から、予算、敷地の特性、法律的な制約など、与えられた条件や要素を最大限に生かして、住み手が心から満足する家をつくりたいという想いを込めて付けた名前です。
──満足するというのは、たとえばどんなことですか。
過ごしていて心が躍るような、「その人のためにある世界で一つだけの空間」と言えばいいでしょうか。私は20年以上前、世界の建築を見に行くために1年以上かけて、バックパッカーをしながらヨーロッパまで旅をしたことがありますが、そのときに体験したそれぞれの気候や暮らし、営みといったものが、100人いれば100通りあり、それぞれの家を考えるための土台になっています。
──打ち合わせではどんなことを重視しますか。
まずはお客さんの言葉として出てくる要望だけでなく、根源的に求めているものを掘り起こすことですね。じっくり何度も話を聞きますし、設計ができて、家づくりが始まり、現場監理をしているときであっても、形になっていく家を見ながら感じていることをお客さんにうかがうようにしています。完成するまで気は抜けません。
──手がけた中で、印象に残っている家はありますか。
ヨーロッパから帰国した若いご夫婦の住まいとして、古民家をリノベーションしたのは素晴らしい体験でした。予算が厳しい面もあったのですが、お客さんは「できることは自分たちでやろう」と言って、友達の家族と一緒に解体や土壁塗りをしたりしてくれまして、私としても、文字通り「住む人と一緒に家をつくる」という、とても貴重な機会になりました。
──リノベーションの面白さとはどんなところですか。
既存の住宅には新築にはない年月の味がありますから、それを生かせるのが強みですね。価値のある部分とない部分をしっかり見極めて、価値のある部分に新しい技術をプラスすれば、新築に負けない性能や便利さが出せるわけです。
西尾昌浩+西尾智乃(アトリエGivens一級建築士事務所)
【西尾昌浩】1962年 大阪市生まれ。 1986年 広島大学工学部第四類建築学科卒業。 欧州遊学 1987年 (株)象設計集団勤務。2000年 事務所設立 【西尾智乃】1965年 名古屋市生まれ 1988年 岐阜女子大学家政学部住居学科卒業。 (株)象設計集団勤務。2000年 事務所設立