家の役割は「住み手の内面を育むこと」
西島正樹(プライム一級建築士事務所)
人は何のために家をつくるのか。「すこやかに暮らすため」と考える人は多いだろう。では、どのようにすれば、それは実現するのだろうか。「家は住み手の内面に影響を与えるもの。ひとりひとりの心と呼応する空間の中でこそ、人はすこやかに生きることができます」と語るのは建築家の西島氏だ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──建築と人の心の関係に関心を持ったきっかけは何ですか。
若い頃出会った「建築は凍れる音楽」という古人の言葉がきっかけとなりました。この言葉を知り、建築は、音楽のように人の気持ちや意識に働きかける力を持っていると感じました。
それまで私はウッドベースを弾いていて、プロの音楽家になりたいと思っていたのですが、この言葉に導かれ、建築の世界へと入りました。
──人の気持ちや意識に働きかける力とはどういうことですか。
たとえば「子どもには良い教育環境を」と言われますが、ここでいう「環境からの影響」とは物理的影響というよりも、感情とか気持ちといった精神面への影響がより大切だと考えます。私たちの内面は周囲の有り様に深く影響を受けているわけです。
家は、住み手にとって長い時間を過ごす場所ですから、他の建物以上に「人の内面を育む」ことに対して責任があると思います。
──では「内面に良い影響を与える家」とはどんな家なのでしょうか。
何よりも大切なのは、そこが「自分の居場所」だと確かに感じられることです。当たり前のようですが、これを実現することは簡単ではありません。
──どういう家だと人は「自分の居場所」と感じられるのでしょう。
まず「守られている」と感じられることが大切です。プライバシーが守られ、そこにいることが一番安心と感じられることが、安らぎにつながります。
一方で人は「開放感や広がり」も求めます。単に「守られている」だけの空間では、場合によっては息が詰まってくるわけですね。相反する特徴をもつ「守られたいが、開放感も感じたい」という2つの気持ちを1つの空間が満足させなければならないのです。実現するには、独創的な発想と様々な工夫が必要になります。
──家族の関係にも影響しそうですね。
家づくりとは、それまで住んでいた家が一度消えて、新たな家が誕生する、ということです。部屋の大きさや位置関係が変わることは、家族の関係をゼロからつくり直すことにつながります。
家族の豊かな関係を育んでいけるような環境をつくることも、建築家に課せられた重要な仕事だと思います。
西島正樹(プライム一級建築士事務所)
1959年 東京都生まれ
1982年 東京大学建築学科卒業
1984年 東京大学大学院建築学専攻修士課程修了
1984年 (株)石本建築事務所勤務
1989年 (株)プライム一級建築士事務所設立、代表取締役就任。
アメリカ建築・芸術&科学アカデミー・39国際建築コンペ、日本建築学会 作品選奨、日本建築士会 連合会賞、日本建築家協会 優秀建築選、日本インテリアデザイナー協会 JID賞他、多数受賞。工学院大学 非常勤講師も勤める。