意見のぶつかり合いから生まれる「最高の普通」
二宮俊一郎+諸留智子(一級建築士事務所エヌアールエム)
「写真だとスタイリッシュな面ばかり強調されるので…」。担当した家の写真集を見たことを伝えると、こんな言葉が返ってきた。家が本当にいいかは、見た目や雰囲気だけでなく、中に入って生活してみないとわからない。「つくりたいのは、外から見ても中で暮らしても、いい、と言える家です」。その言葉からは、見せるためでなく人が生活するための「もの」を作っているのだという自負がにじみ出る。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――シンプルで飽きのこない家が多いな、と感じました。
あまりトリッキーなものはつくりたくないと思っているので、そう感じるのかもしれません。家づくりで、大事なことは「住みやすさ」「機能性」「内側外側のデザイン」の3つだと考えています。当たり前のことですが、この3つを高いレベルで昇華させるのは簡単ではありません。他人にみせたり、雑誌に載ることを目標にしてはいけない。家はあくまで住み手のためのものだということです。
――確かにメディアに登場する家の中には「かっこいいけれど暮らすのはどうかな」というものもありますね。
施主にもこのスタンスを理解してもらうようにしています。まず、思いつく限りの要望を出してもらい、出来るだけそれを盛り込む提案をします。しかし、予算の問題だけでなく、すべて詰め込むとどこかに無理が出たり、いびつな印象になったりするケースもあります。そこで、要望の中から本当に大事にしたいもの、優先順位の高いものを整理して、プランを見直します。私たちはヘンなことはしない。基本に忠実に暮らしやすい空間を作ります、だから信用してある程度は任せてください、と。だいたい過去の物件を見学してもらうことで理解していただけます。施主の要望を言葉そのままではなく、要望で出た言葉とは違う形かもしれないけれど、要望の本質は満たしつつ解決し上回る提案をすることが私たちの役割だと思っています。
――夫婦で役割分担はあるのですか。
最初の打ち合わせから、最後まで、諸留と共同で担当しています。最初のたたき台を描くのは私で、設計を練り上げるのは諸留と共同というケースが多いですね。
――意見が対立することもありますか。
よくぶつかります(笑)。そんなときにはお互いの考え方を持ち寄り、施主も交えてディスカッションするんです。施主を入れるのは活発な議論と、結局は施主が住まう場所だから、その意見を尊重したいからです。こちらとしては、「あのときこう言っておけばよかった……」と思われるのが一番怖い。だから、こういう場を設けて何でも言える状況をつくっておくわけです。
――なるほど、ぶつかってもいいと。
結局、コミュニケーションが大事だということです。それでも、いつも完成が近づいた頃には、「こんな家に住めるなんて、ええなあ」と2人で言っていますよ。
二宮俊一郎+諸留智子(一級建築士事務所エヌアールエム)
【二宮俊一郎】
1966年 鹿児島生まれ
1989年 大坂芸術大学芸術学部建築学科卒業
1997年 諸留智子と一級建築士事務所エヌアールエムを共同設立
2009年~近畿大学文芸学部芸術学科非常勤講師
【諸留智子】
1966年 大阪生まれ
1989年 大坂芸術大学芸術学部建築学科卒業
1997年 二宮俊一郎と一級建築士事務所エヌアールエムを共同設立