ひとりひとり違う「人」のための家
直井忍(直井建築設計室)
なぜ建築家と家をつくるのか。改めて考えてれば難しい。建て売り住宅といってもさまざまなモデルがあるし、要望だってある程度はかなうだろう。しかし、それでもやはり自分で家をつくることには魅力を感じるのはなぜか。直井氏に聞いた。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──オーダーメイドで家をつくるメリットってなんでしょうか。
本来、住宅とは、完成したものを売り買いしたり、カタログから選ぶようなものではないと思っています。言ってみれば、住宅というものは、自分や家族の生き方の投影です。この世界には一人として同じ人間、同じ家族はいないわけですから、住宅も人間に合わせてひとつひとつ違うものをつくるのがあるべき姿ではないでしょうか。
──その上で理想としているのはどんな家ですか。
あまり主義主張のない「普通の家」というのが一番いいと思っています。家というのは、家族で長い時間を過ごす場ですし、日常生活そのものという面がありますので、ある意味「余白」のような感覚を持てることが大事です。たとえば、歳をとれば、家族構成だけでなく、考え方や価値観も変わってきます。そうなったときにも、「この家でよかった」と思えるかどうか。そんな柔軟性を持たせるためには、設計するときに造りきるのではなくほんの少しの余白を持たせることが大事になります。何か付け足ししたくなっても、気持ちを抑えて、少しもの足りないくらいにとどめておくのがいいのではないかと思っています。
──今住む人のことだけでなく将来のことまで考えるんですね。
大学の先輩である建築家の吉原正さんから教わった言葉に「建築には用がある」というものがあります。当たり前のことですが住宅で言えば、「どんな人がどんなふうに住むのか」という「用途」をはっきりさせないと、必然的なデザインをつくることはできません。、この言葉を腹に入れて、片時も忘れないようにするのは簡単なようで実は大変難しい。施主さんとの打合せでも、この「用途」がわかるまで、時間をかけてじっくり話し合うようにしています。
──「長く住める家」と言えば最近はリノベーションも活発になっています。
これまでのようにスクラップ&ビルドを続けていくべきではないのですが、日本では、住み継ぎたいと思うような魅力的な住宅が少ないのが現実です。だから、建築家としては、20年後、30年度に「このまま残しておきたい」と言えるような家を今からもっとつくっていきたいと思います。長く住んでいる人がより愛着を持てるような家であれば、年月を経るに従って資産価値が上がるというケースも出てくるのではないでしょうか。そんな家をつくってみたいですね。
直井忍(直井建築設計室)
1964年 東京生まれ。 1988年 横浜国立大学工学部建築学科卒業。 1988年 野村不動産(株)勤務。 2003年 直井建築設計室設立。