「大事にしている時間」を輝かせる家
村上公朗(村上公建築研究所)
「建築家は未来を背負っているんです」。家が、住む人の人生や家族とのコミュニケーションに関わるという話になったとき、村上氏はこう力を込めた。誰にでもある「家の中での大切な時間」を輝かせるために、何ができるのか。問いの原点には、少年時代の体験がある。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──建築の道に進んだきっかけは何ですか?
私は昭和34年生まれで、そのころはちょうど高度経済成長のまっさかりでした。東京オリンピックに大阪万博と、建築がまさに社会の成長を支えていた時代です。
小学5年生のころ、大阪万博でいろいろな建築が作ったパビリオンを観て、興奮したことを覚えています。それに私の父も、注文住宅に憧れて、建築家に依頼して私たち家族のためにマイホームを建てました。当時17歳、それが嬉しく嬉しくてこころが踊りました。そんな、建築が未来を作っていた時代を肌で感じているうちに、これしかないと思うようになっていったわけです。
そして建築学科を目指し卒業するとすぐに、日本でも有数の住宅を得意とする建築家先生の研究所に入所しました。毎日が学習でした。
──今はどんな点がおもしろいと感じていますか?
やはり、依頼者の家族の夢に参加できるのが一番楽しいですね。家族一人々々の顔を見ながら、その家族のためだけにものをつくる。初めから完成までずっと関われる。こんな素敵な仕事は他にないと思います。そして、家が完成した直後からが、本当の「繋がり」が始まると思っています。
──「その家族のためだけの家(生活の容器)」をつくるわけですね。
生活をデザインするための空間づくりです。
たとえば、子供がいるからといって6畳とか4畳半の寝起きできる子供部屋がいるとは限りません。みんな同じ部屋で寝て、別途、子供用の勉強部屋を作るという手もあるわけです。
例えば、お風呂の時間を大事にしてるなら、親子兄弟、家族皆で入れるような素敵な浴室をつくる。食事の時間を大事にしてるなら、広めのダイニングをつくり、たまにはテラスや庭でも食事したりできるように配慮して設計しておく。料理が好きなら、スポーツが、アウトドアが、こんなふうに家族の生活にもさまざまなビジョンや思い入れがあります。そのための最適なデザインを探すことが大事ですね。
──「家でこれがやりたい」ということが特にない人もいませんか?
「自分には特に趣味はない」と言う人もいます。しかし、どんな人でも必ず家で「大事にしている時間や思い」はある。それを探し見極めるのも、家づくりのおもしろいところであり、建築家の技量の見せ所です。
たとえば、奥さんが家族のお弁当を作るのにちょっと凝っているとか。そんなささいなことでも、お弁当を毎日楽しく作りやすいようなキッチンをつくれば、心地よい時間が過ごせます。
庭の草むしりであっても、その人にとって心から落ち着ける大切な時間になっていることだってあるわけです。そんな心の機微に触れるような提案をしていきたいと考えています。
16年前、歳をとった両親と、妹家族のために築20年の私の実家をリフォームしました。依頼主は私の父、設計は私がしました。父は一昨年なくなりましたが、父が遺してくれた「家族への想い」は今も生きています。
村上公朗(村上公建築研究所)
1959年 福岡県生まれ
1977年 九州学院高等学校 修了
1983年 熊本工業大学工学部建築学科 修了
1983年 緒方理一郎建築研究所 入社
1989年 株式会社岡野設計事務所 入社
1994年 一級建築士事務所村上公朗建築研究所 設立
2011年 村上公建築研究所一級建築士事務所に改称