住宅は施主と一緒に育てる「生きもの」
村上明生(アトリエサンカクスケール株式会社)
「自分や家族にとって最高の家を作りたい!」。そう思って要望を挙げようとするがかえって何も浮かばない――。このようにつまってしまうことはよくある。しかしそんなとき、「住宅は生きもの」という村上氏の考え方を聞くと、もっと柔軟な発想が出てきそうな気がしてくるから不思議だ。
──この事務所には、何人くらいのスタッフがいるのですか。
現在は8人の建築家がいます。当事務所は、住宅設計だけでなく、マンションやビル、店舗設計や公共建築などそれぞれが得意分野を持っていて、さまざまなご要望にお応えできるようにしています。 たとえば家の設計でも、ダイニングの雰囲気を話し合うときは、店舗デザインが得意な建築家を呼んで、照明や視線の方向について話しをしたり、空間のバランスを整えて意見をまとめたりします。つまり、建築家の数だけ設計のアイディアが生まれ、予想もしなかった間取りができるのもしばしば。お施主様にはアイディアの「いいとこ取り」をしてもらいたいですね。
──いろんな考えを取り入れて設計するわけですね。
そうですね。ですが、建築家の意見も重要ですが一番大切なのは、お施主様の考え方です。お施主様がどんな人で、どんな暮らしをしたいのか、一緒に食事したりしてそれがわかってくると、いい提案ができますし、結果的に「住んでよかった」と言ってもらえる家になります。
当事務所が手がけた建物には、あまり「作風」と呼べるものはないのですが、それは、一人ひとりまったく違うお施主様の「考え方」をしっかり反映しているからだと思っています。
──お施主様の要望をどのように捉えていますか?
大事なことは要望そのものではなくて、本人も気づいていないような「本質的な要求」です。
たとえば「3LDKの家がほしい」という人がいるとして、「はい」と単純に3LDKを作るなら建築家はいりません。そこから「なぜ3LDKを希望するのか」と考えて、「それならこういう暮らし方のほうが気に入りますよ」というベストな提案を出す。これが建築家の仕事だと考えています。
──いい仕事ができたと感じるのはどんなときですか?
いい建物、いい人間関係、その両方ができたときが最高ですね。物と人、どちらか片方が欠けてもダメだと思います。
家は、物として出来上がったときが「完成」ではありません。実際に何年も住んでから「やっぱりこうしたい」「ああすればよかった」といったことが出てくることもよくあります。
そんなとき、お施主様と建築家とのいい人間関係があれば、家をライフスタイルに合わせて、どんどんよくしていくことができます。家というのは、いわば、お施主様と一緒に育てていく「生きもの」なのです。
村上明生(アトリエサンカクスケール株式会社)
1998年 福岡大学工学部建築学科 卒業 2000年 九州芸術工科大学大学院修士課程 修了 2004年 アトリエサンカクスケール株式会社 設立 2004年 麻生工科デザイン専門学校 非常勤講師(~2007年) 2010年 JCDデザインアワード2010 BEST100 受賞 2011年 キッズデザイン賞 最優秀賞 少子化対策担当大臣賞 受賞