「家族の想い」が伝わる図面を
松本直樹(アトリエ N-size)
家づくりにはたくさんの人が関わる。クライアントと建築家だけでなく、大工や職人もいる。さまざまな人々が関わるプロジェクトの中で、建築家はどんな役割を果たすのか。松本氏は「人との関わり」の大切さを語る。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──建築家として作りたいのはどんな家ですか。
奇抜なものより、自然なものを。素材感があって、心地よく、そして永く居たいと感じるような住宅を目指しています。
家族とともに、年月を重ねていけることも大事です。たとえば、ある壁にビニールクロスを使ったら、何年も経つと汚れて、めくれ上がってしまい、ただ古くなるだけです。ところが、はじめから木や自然素材を使っていればどうなるか。長く使っているうちにできたキズもやがて違和感がなくなり、むしろ味わいが出たりする。そういうことまで見通した提案をしたいと思っています。
──素材を重視するとコストも心配です。
いい素材を使おうとすると確かにコストがかかります。しかし、そこは依頼者と「この家で、すまい手のオリジナリティーをどのように見い出せるか」をしっかり話し合い、コストに見合うよう、メリハリをつけて空間と素材のバランスを考えます。
また、うまく素材の使い方を考えると、大工や職人たちが意を汲んでくれてきちんとつくってくれます。「安く、早く作るのではなく、ていねいにつくる」という意志が伝わるわけです。
──コミュニケーションを非常に重視していると聞きました。
建築は人との関わりでつくるものであって、クライアント・建築家・施工者(職人)の三者が一体になることが大事だと考えています。
学生の頃、建築家として活躍されていた先生方から「人なしでは建築はつくれない」ことをはじめて教わりました。建築設計事務所で働くようになり、現場の職人さんやさまざまな人々とのやりとりから学んできました。
──設計するときは、どんなことに気をつけていますか。
建築家として、すまい手の想いや考え方、価値観を汲み取り、アイデアを提案し、空間に反映させるということを心がけています。それは、そういった多くのものを図面に表現するということが建築家の役目でもあります。
図面は、つくり手にどんなものをつくるかを伝えるためのものですが、ただ、モノとして何をつくるのかを伝えるだけでは不十分です。家族の想いと建築家の意図と熱意がこもっていて、それらの想いがつくり手にも伝わるような図面を描かなくてはなりません。
やはり、家は人とのコミュニケーションの中でつくられるところが大きいと思うからです。
松本直樹(アトリエ N-size)
1967年 大阪生まれ
1991年 大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業
1991年~2005年 無有建築工房 勤務
2006年 アトリエ N-size 設立