デザインも実用性も「暮らす人の視点」で
前谷卓嗣+前谷ひさえ(株式会社前谷建築事務所)
多くの人は、デザインと実用性は相反するものと感じている。買い物には、かっこいいクルマより軽トラのほうが便利だろう。だが、家となると、クルマのように単純ではない。「暮らす人の視点」で考えた場合、建築家はどんな家を目指すのか。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──設計するとき、どんなことに気をつけていますか。
忘れられがちなことから話すと、傷みにくかったり、メンテナンスがしやすかったりといった「維持管理の簡単」さは大事です。
建築家としては、とにかく実際に長年住む人のことを考えて、「住み手が無理をしない」「住み手に無理をさせない」という点を守る。その上で、デザイン的にも実用的にも豊かな空間を作ります。
それを踏まえた上で、家の中で快適な空間を作るだけではなく、内側と外側との関係性を大事にしたいと思っています。
できるだけ自然の光や風を生かし、敷地の持ち味を生かしたベストな回答を探し当てていくわけです。内と外をシャットアウトするのではなく、デッキや中庭など、内と外の中間的な要素を入れて、内部と外部が上手くつながるように配慮しています。
──お客さんの要望はプランにどう関係しますか。
ごく単純に言ってしまうと、「99%は建て主の意向で、残り1%に建築家の考え方をエッセンスとして入れる」という感覚ですね。
建て主の希望を叶える家を作るのはもちろんですが、その上で、日々の暮らしのなかに感動や発見がもてるような、想像のつかないような面もちりばめておかねばならないと思っています。
──打ち合わせも大事ですね。
大切なのは、お客さんとの「かけ合い」です。
住み手の「こういうことをしたい」というアイデアがあるから、建築家も、さまざまな解釈を考えるし、「本当はこういうのが好きなのでは」と、また新たな発想が出てきたりする。
私たちの事務所では、できるだけこちらも夫婦で出席し、建て主のご家族も含め、多人数で打ち合わせをするようにしています。これも、人数が多い方がいろいろな見方が出てくるからです。
生活を包み込む器としてどれがベストか、「これがいいと思う」というのではなく、「かけ合い」しながらさまざまなプランを出し、お客さんと一緒に考えていきます。
──いっぽうで、コストなどの制約もあります。
お客さんの幸せを考えれば、設計者もコストパフォーマンスを常に頭に置いて置かねばならなりません。建物にお金をかけたはいいが、生活に余裕がなくなる、というのは本末転倒ですから。
無理のない範囲で家を作って、暮らしも楽しんでもらえるよう、ベテランとしての経験とノウハウで「抑えるところはしっかり抑える」。これが大事だと思っています。
前谷卓嗣+前谷ひさえ(株式会社前谷建築事務所)
【前谷 卓嗣】
1953年 大阪市生まれ
1978年 京都工芸繊維大学住環境学科卒
1985年 (株)前谷建築事務所設立
【前谷 ひさえ】
1956年 徳島市生まれ
1979年 横浜国立大学建築学科卒
1982年 前谷ひさえ設計室設立
1985年 (株)前谷建築事務所設立