時代に新風を吹き込む建築家たち

2011.11.09

家族の夢を「幾何学的なデザイン」で見せる

腰越耕太(腰越耕太建築設計事務所)

黄金比や正円などを取り入れた幾何学的な構成――。腰越氏はテーマをはっきり持った建築家だ。クライアントの要望を基本に、家としての住みやすさと建築物/空間の美しさの両立を目指している。検討段階では必ず模型を作るという彼のポリシーからは、住み手の人生を左右する家づくりという仕事への誠実さが見える。

インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部

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──まずは建築家を目指したきっかけから教えて下さい。

はじめにアトリエ事務所に入所して、職人さんたちと仕事をしたり建築の勉強をしたりする中で、建築家になろうと思うようになりました。とくに篠原一男氏が設計した住宅には衝撃を受けました。もともとは住居として作られた建物ですが、はじめから美術館として作られたかのような、張り詰めた空気があったからです。言い換えれば、空間そのものが感動を起こさせるような建物でした。そしてその空気は、大勢の人で混み合っていても、子どもが走り回っていても乱されることがありません。

その住宅を見たとき、初めて「空間には人を感動させる力がある」ということが、体験的にわかったのだと思います。

──そういった体験は家づくりにも生かされていますか?

篠原氏の建築を見てから、自分のデザインにも、黄金比や正円などを取り入れた幾何学的な構成を心がけるようになりました。ただ一方で、きっちりと数学的に構築された部分ばかりにならないよう、必ず対立的な要素を入れることにしています。たとえば、部屋に木漏れ日が差し込むようにするなど、幾何学的な美しさの中に、自然さ、あいまいな要素も取り入れる。そうすることで体験に深みが増すわけです。これはフランス文学者・澁澤龍彦の「幾何学とエロス」という文章にある、「相反するものの一致」する面白さに影響をうけたものです。大学時代の恩師からも「建築以外のことに着想を求めよ」と言われ、建築から離れた分野や物語をデザインのモチーフにすることも多いです。

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──打ち合わせではどんなことに気をつけていますか?

打ち合わせで一番大事なことは、よりどころとなるコンセプトを決めることです。クライアントの趣味や家の中での過ごし方などを聞いて、「何のために家をつくるか」という最終目標をハッキリさせる。固まったらあとは最後までブレないようにする。いきなり「キッチンはこうしてほしい」という話から入ると失敗します。提案するときは、模型を大小いくつも作って、クライアントに全体像や屋内をイメージしてもらいながらじっくり進めるようにしています。

──幾何学的なデザインはそこで入ってくるんですね。

設計するときは、クライアントである住む家族の要望を軸に、建築家の私が「幾何学的な美しさ」をエッセンスとしてデザインにプラスしていく感覚ですね。たとえば、窓を壁の対角線上につけるといった幾何学的な構成は、「なぜこの場所に窓があるのか」といったことをクライアントに説明しやすいし、誰が見ても美しい。合理的な美しさは使いやすさや住みやすさにも通じるのです。

腰越耕太(腰越耕太建築設計事務所)

photo 1976年新潟県生まれ。神奈川大学大学院卒業。アトリエ事務所、組織設計事務所勤務を経て2004年に独立。2010年 株式会社腰越耕太建築設計事務所設立。

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