出来上がった時より、住んだ後に喜ばれる家づくり
小泉宙生・金山大(SWING)
モデルルームやカタログがある建売住宅と違って、建築家と家を建てる場合に、建て主が参考にできる材料は多くはない。ただ、それこそ家づくりの本来の姿であり、面白味とも言えるだろう。私たちは「まだ見ぬわが家」をどう形づくっていけばいいのか。SWING共同代表の小泉氏と金山氏に聞いた。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──施主に要望を書いてもらうための専用用紙があるのですね。
小泉「要望はなんでも話してもらうのが基本ですが、普段の生活で意識しないことも多いですからね。ひととおりヒアリングした上で、施主さんに用紙を持ち帰ってもらい、項目を埋めながら、じっくりと住みたい家のイメージを膨らませてもらう。用紙はつまり、考えるための仕組みです」
金山「『施主さんと一緒に考える』ということを大事にしています。だから、こちらのイメージを押し付けることはしません。かといって安易に施主さんの要望をそのまま形にしていくこともしない。やはり、周辺環境や光の当たり方、風の吹き方といった敷地の特性を最大限に生かす提案が基本ですね」
──質問項目にはどんなものがあるのでしょう?
小泉「おもに普段の暮らし方についてです。食事は家族一緒に食べるか、週末はどんなふうに過ごすか、来客はどれくらいあるか……、デザイン的な好みも大切ですが、こういう基本的なことをしっかり押さえて建物を作ることで、わたしたちが理想とする『居心地のいい建物』『長年住んで良さがわかる家』ができると思っています」
──そういう基本の上に、施主さんの美的感覚や価値観が加わるのでしょうか。
金山「そうですね。ほとんどの人は、家に居心地の良さや安心感を求めますから、それは確保する。その上で、施主さんの味を入れることで『作風』というものが出てきます。家はあくまで施主さんが作るものです。大変なこともあるでしょう。でも、それでこそ夢が形になっていく喜び、ワクワクする感覚が味わえるのではないでしょうか」
──印象に残っている案件はありますか。
小泉「2年前に完成した家に、先日訪ねて行ったら、奥さんとお母さんが出てきて、『住めば住むほど良さがわかる。注文してよかった』と言ってくれました。実はその家、ご主人の相談だったのですが、当初は奥さんとお母さんは建て売り住宅の方がいいと反対していました。こんなことがあると、いい仕事ができたとしみじみ思いますね」
小泉宙生・金山大(SWING)
小泉宙生:
1973年4月 大阪府生まれ
1997年3月 大阪芸術大学芸術学部建築学科 卒業
1997年4月 北村陸夫+ズーム計画工房 入所
1998年4月 (有)Ms建築設計事務所 入社
2006年10月 株式会社SWING 共同設立
金山大:
1974年1月 兵庫県生まれ
1996年3月 大阪芸術大学芸術学部建築学科 卒業
1996年4月 (株)IAO竹田設計 入社
2006年10月 株式会社SWING 共同設立