「最適の家」に土地が導いてくれる
川津悠嗣(かわつひろし建築工房)
家を建てるとき、人は最初に何を考えるだろうか。好みのデザインや理想の家族関係、便利な機能……、挙げていけばキリがない中で、建築家の川津氏は、何より「土地との関係」が大切だと語る。その理由とは何か。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――建築家を目指したきっかけから教えてください。
小さいころ、積み木遊びに熱中していたとき、父が「そんなふうに建物をつくる仕事があるんだよ」と教えてくれたのがきっかけですね。成長して、絵も好きだったので美術の道に進むか迷ったものの、美術大学の建築学科へ進みました。
大学を出ると、いったん設計事務所に勤めましたが、海外で仕事がしたくて青年海外協力隊でモロッコに行ったり、と国内外で建築に関わってきました。
――これまでの経験を踏まえて、どんな家をつくりたいと考えていますか。
「強い自己主張をしないが、際立っている」。そんな環境と調和した建物をいつも目指しています。
私の手がけてきた住宅は、ローコストで予算が厳しいものが多かったのですが、そういった条件の中で、中も外も身の詰まったものにしようと苦心してきました。余計な装飾は排除して、必要と思われるもので構成しよう、と。
――具体的にどのように提案をしていくのでしょうか。
まず、初めのうちは先入観を持たないよう形にしないで、インタビューを重ねて、考えのすりあわせをしたり、土地への思い入れを探ったりすることにしています。
要望は実現できるように努力しますが、言葉や考えは時として変わるものなので、それだけでは家づくりの「芯」にはなりません。要望を受け止めつつ、時間をいただいて、5年、10年と変わらない何かをクライアントと一緒に考えていくことが大事です。
たとえば、「CYY」という家は、お話をいただいてから完成までに4年かかっています。
クライアントは「手のひら盆栽」の作家で、「日常生活で盆栽を感じたい」という希望でした。2階バルコニーを盆栽棚・兼ルーバー(目隠し)にすることで、「この土地で盆栽をつくって暮らしています」ということをさりげなく表現しています。
――要望と同様に大事な「土地への思い入れ」とはどういったことですか。
わかりやすく言うと、「この場所(環境)でこういう暮らしをしたい」という気持ちのことです。これを設計に定着させるのが私の仕事だと思っています。
その土地が、平地なのか山地なのか、また、過去はどのように利用されてきたのか。また、現在どのような環境にあるのか。そして、なぜこれから暮らす場所にその土地を選んだのか。
そういった「土地との関係」がまずあって、そのことをクライアントと共有した上で、「何を大事にして暮らすのか」といったことを考える。
土地の導きに従うことで、より最適な家ができるのです。
川津悠嗣(かわつひろし建築工房)
1975 熊本県立濟々黌高校卒業
1979 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
1979-83 青年海外協力隊参加(モロッコ王国へ派遣)
1986-91 葉デザイン事務所
1991- かわつひろし建築工房
2004- 九州産業大学非常勤講師