住む人が「主役」になれる「優しい」家づくりを。
桂典子(汎美設計一級建築士事務所)
住宅とは、食事をとったり、眠ったりする「休息の場」でもあれば、子育てや家事をする「仕事の場」でもある。桂氏は、このような家の役割すべてを含めた上で「住宅とは、住む人の人生を演出するための舞台だ」と語る。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――美術系の学科を卒業されたんですね。
昔から絵を描いたり小説を書いたりするのが好きで、美術学科を出てデザインの道に進みました。その後、デザインから建築の道に進むときは、「あなたのように絵を描ける人は有利だと思う」と言われましたが、建築の世界でも、絵を描けると便利です。お客さんとの打合せでも、鉛筆でササッとスケッチを描いて「こんな感じですか」と確認できますからね。
――お客さんとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか。
お客さんが話しやすい雰囲気を作ること。これに尽きます。つまり、何でも聞きますよ、という心構えで、お客さんに対応するんです。そうすると、雰囲気が伝わるので、お客さんも、好きな色や好きな建築様式など、好みを素直に語ってくれます。
――これまでに印象に残っているお客さんはいますか。
どのお客さんも印象深いのですが、四階建ての店舗兼住居を建てたときは感動しました。お客さんが出来上がるまで工事現場の隣に住んでいて、毎日、建築風景を撮影してくれていたんです。完成してから、その「建物ができるまでの記録」のDVDをいただいたのが、とても嬉しかった。
――建築家としてどんな役割を果たしていきたいと考えていますか。
私は、建築家とはサービス業だと考えています。自分が好きな建築、自分の「作品」を求めていくことより、実際に住む人が癒されるような空間を作ることのほうがはるかに大切だと思います。住宅とは、住む人の人生を演出するための「舞台」ですから。
――主役は住む人ということですね。
住む人をやさしく包んでくれる、そして迎えてくれる、そんな「おかえりなさい」「いってらっしゃい」という声が聞こえてくるような家をつくりたいですね。もちろん、そのためにはさまざまな工夫を凝らすことが必要になりますが、そういう作為がまったく見えない「優しさ」を感じる建物が最高だと思います。
桂典子(汎美設計一級建築士事務所)
1969年 和歌山大学教育学部美術科デザイン教室卒業、 1969年~1975年 汎美建築設計事務所勤務(本社・京都)、 1975年~1995年 汎美設計大阪事務所勤務、 1995年 汎美設計一級建築士事務所 設立。