相手に身になって考える「住みやすさ」
伊藤良 株式会社邑計画(ゆうけいかく)
「もし自分が住むとしたら……」要望を受けて家をつくる建築家から、このような言葉が出てくるのは珍しい。ただ、伊藤氏のこの言葉は、自分の建てたい家を建てるという意味ではなく、相手の身になって「住みやすさ」を考えるということだ。ひとつひとつの言葉から、強い責任感が伝わってくる。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──家づくりで一番大事なことは何でしょう。
私が気をつけていることは、どんなちょっとしたことでも「相手の身になって考える」ということですね。デザインや見た目のよさも大事ですが、必ず「住みやすいか」という観点を忘れないようにしています。
たとえば、建具ひとつとっても、「ひさし」がないほうがかっこいいとします。しかし、夏になったら暑くて住みにくいだろうな、と思ったなら、ひさしは付ける。自分が住む側だったら……と考えるわけです。
当たり前すぎるかもしれませんが、この「住みやすさ」を求めるということにおいては、いつまでも単純でありたいですね。
──そんな「住みやすさ」をどう提案にまとめるのですか?
まずは、打ち合わせで、本音を言い合える関係を作ることです。クライアントと親しくなって、じっくり話し込めるかでほとんど決まります。
家をつくると、夫婦や家族のコミュニケーションも変わるし、ローンもできる。つまり人生が変わるわけです。暗い話かもしれませんが、建築家としては、家を建てることが人生のマイナスにならないよう、お金の話もしっかりしておきたいですね。
──要望はどのようにまとめていくのですか?
クライアントには、話すだけでなく、書いてもらうようにしています。書くと、「本当にこんな家に住みたいのか」「本当にこれだけの広さが必要なのか」という具合に、咀嚼して深く考えるようになるからです。
やはり、自分の家ですから、できるだけクライアントが自分で考えてもらいたいと思っています。話すだけでは、なかなか将来のことや自分の理想とする暮らしのことを考えるきっかけになりません。実際に、書いてもらうことで、これから作る家がどんどん小さくなっていったこともあります。
──施主も考えないといけませんね。
本質を考えることですね。13年前、賃貸住宅を建てたいというクライアントに、「そんなに詰め込まなくてもいい」と言われたことが印象に残っています。普通なら、賃貸に出すのだから収益性を考えて、敷地が許す限り戸数を増やすわけですが……。おかげで、子供が自転車で遊び回れるくらいのゆとりある空間ができ、今でも通りがかった人が驚くくらいです。
クライアントの考えで、建築は決まるのです。
伊藤良 株式会社邑計画(ゆうけいかく)
1953年 山口県生まれ
1978年 大阪工業大学工学部建築学科卒業
1978年 株式会社四方建築設計事務所に師事
1980年 株式会社アーバンライフ建築設計事務所に師事
1983年 伊藤良 設計室 設立
1990年 株式会社邑計画 主宰