繊細な感覚を忘れずに、静かな時間が流れる空間をつくる。
井上洋介(井上洋介建築研究所)
生活を送る場所であるだけではなく、人によっては仕事や趣味の場でもある「家」。家がどのような空間であるべきか、ひとことで言うのは難しい。ただ、自分の家で静かに過ごしたいときは誰にでもあるはず。井上氏がテーマとしているのは、そんな静かな時間が流れる空間づくりだ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──どんな家を作りたいとお考えでしょう。
施主さんがどんな希望をお持ちかにもよりますが、私の感覚としては、素材の質感を大切にした住宅を手がけたいと考えています。
かっこよさや斬新さ、ユニークさではなく、静かに落ち着いて居続けられることを重視した家。10年、20年と住み続けても、飽きが来ず、住む人が「この家にして良かった」と感じられるような家づくりが理想です。
──素材の質感を大切にするとは、どういうことでしょうか。
コンクリートはコンクリートらしく、木は木らしく、鉄は鉄らしく見えるよう、それぞれの持ち味を生かしながら組み合わせて使うことです。そうすると、暮らしていても違和感を感じず、心地良く居られる家になるものです。
外から見てデザインが美しく、素晴らしいと思える家もあります。しかし、そうした外部からの見て美しい家が、実際の生活でゆったりとすごせる家かというと、必ずしもそうとは限りません。むしろ、そのような例では、中にいて緊張を覚えてゆっくりと暮らせない家もあったりします。
静かに居続けられる家になるためには、素材の良さ、光や風の入り方といった根本的なことが重要だと考えています。
──自宅でストレスを感じないと、暮らす側は楽ですよね。
私たちは普段、情報過多の社会で暮らしてますから、せめて家の中くらいは静かでゆったりした時間を持てるようにしたい。そういった想いから始まって、私は素材を加工しすぎず、正直にじっくり家を作っていきたいと思うようになったのです。
──施主さんとのやりとりではどんなことに気をつけていらっしゃいますか。
好きな景色や休みの日の過ごし方など、雑談を通じて価値観を理解していくのはもちろんですが、私はさらに「慎重に作ること」をモットーにしています。
施主さんが「ラフな感じのコンクリート面にしたい」と言ったら、言葉だけで終わらせず、実際にそういう表情の現場を一緒に見に行ったりします。
リノベーションするときでも、古いものの良さや、先人の思い入れ、街並みへの配慮など、繊細な感覚を忘れずに仕事をするようにしています。そういう正直さは、必ず結果として住まいに現れますからね。
井上洋介(井上洋介建築研究所)
1966年 東京都生まれ。1991年 京都大学工学部建築学科卒業。 1991年 株式会社坂倉建築研究所入社。2000年 同事務所退社。 2000年 井上洋介建築研究所設立。