住宅は「白いごはん」
堀内敏彦(堀内総合計画事務所)
新しく家を建てるとき、多くは「アレがしたい、コレがしたい」と考える。しかし、そんな「○○をしたい」は、家づくりの本質から外れているのかもしれない。家は活動するための場所ではなく、「活動しないための場所」なのだ、と。「家はくつろぎの場であり、白いごはん」と語る堀内氏の話を聞いていると、そんな気がしてくる。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
──家づくりで重視していることは何ですか?
まず、家は「くつろぎの場」である、ということです。活動の場ではなく、休養の場である、と。建物としての見た目や格好良さより、これを何よりも大切にしています。
クライアントさんが特別に「こうしたい」というテーマがあれば、その方向性でやりますが、特になければ「くつろぐ」「活力を養う」といった家の基本的な機能を重視して設計したいと思っています。
──たとえばどんなことでしょう。
トゲトゲ、キラキラ、ツルツルといった見た目に主張の激しいものは、あまり使いたくありませんね。素材でも、無垢の木や塗り壁といった自然素材を使った方が、飽きも感じないし、年月を経たときにも独特の味わいが出てきます。
──作るときから長期的に考えておくわけですね。
住宅は何十年も付き合う「うつわ」です。だから、例えるなら毎日食べても飽きない「白いごはん」のようなものではなくてはならなりません。味の濃い料理を食べていたらすぐ飽きますし、フレンチやイタリアンもたまに食べるからおいしい。何十年も付き合うことを考えれば、日本人にとっての「ごはん」のような、体になじむものが一番でしょう。
──施主の要望はどう捉えていますか。
お金を出すのは施主ですから、可能な限り要望を満たせるようにします。建築家の村野藤吾の言葉を借りれば、「99%は施主であって、建築家は1%でいい」ということですね。
──ご自身の仕事で言うと?
「富田林の家」は、道の突き当たりで、外部から見えるのは、前面の幅4メートルしかないという立地環境でした。街並みを考えたとき、中がまったくうかがい知れない家というのは少し気味が悪い。そこで私は、前面に小さな飾り窓をつけることを提案しました。今はその窓の前に、奥さんが花を活けてくれています。
ちょっとしたことですが、それで街と家のあいだに適度な接点を持つことができる。このような心配りこそ、本当の意味での「デザイン」ではないでしょうか。
堀内敏彦(堀内総合計画事務所)
1954年 静岡県生まれ。
1978年 京都大学工学部建築学科卒業。
1991年 建設会社、設計事務所勤務を経て堀内総合計画事務所設立。