そこに暮らす人の「心」をつつむ
片桐寛文(片桐寛文建築研究所2)
「建築家は縁の下の力持ち。すごく根性のいる仕事ですよ」インタビューが終わって、一息ついた時に出てきた言葉だ。主役である住み手を支えるために、見えないところで働く者――。この言葉にこそ建築家・片桐氏の家づくりにかける静かな熱意が詰まっている。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――東京都・日野市は地元なのですか。
はい、日野市で生まれました。子供のころから図工や美術が得意だったので、高校は建築学科に進みました。
――そのまま建築家に?
いえ、大学では機械学科に進んで、建築とはぜんぜん違う勉強をしていました。ところが、別の世界を学ぶことで、より建築の素晴らしさがわかった。
やはり建築の方が自分に合っていると思ったんです。そんなわけで、再び建築の道に進みました。
――なるほど、違う勉強をしてみると、また建築への理解が深まった、と。
機械は「どれだけの性能か」ということがすべてです。対して、建築には技術的な面と芸術的な面がある。改めて奥が深いと感じました。
――確かに、家は「実用的であればいい」というものでもありませんね。
古代ローマ建築の言葉に「用・強・美」というものがあります。「機能的で、安全で、美しい」という、建築のあるべき姿がシンプルに言い表わされています。
この3つの要素が、自然とかみ合った建築こそ、僕の建築です。
――具体的にはどんな家をつくりたいですか。
お客さんに喜んでもらう、というのはもちろんですが、喜びにも2通りあると思うんです。ひとつは、完成した家を見て「気に入った」「期待以上だ」と言ってもらえること。見た目や使い勝手を気に入ってもらうわけですね。ふたつ目は、なかなか感じられない、隠れた喜びです。
――どういうことでしょう?
つまり「見えない部分をしっかり作り喜んでもらう」ということですね。
たとえば、柱・梁はしっかり組まれているか、釘は所定の間隔で打ってあるか、金物は安全に取り付けられているか、配管は将来取り替え可能になっているか・・・などといったことです。
縁の下の力持ちで、永遠に気づかれないような仕事こそしっかりやる!そう言いながら作るのは職人さんなのですが(笑)。僕の立場では、しっかりやってもらえるよう、チェックし、やる気を引き出すよう手腕を発揮する。その手腕とは真剣勝負で現場に取り組むことですね。
見えない部分にこそ、つくり手の姿勢が現れるとは、そういうことです。
――ほかに心がけていることはありますか。
まずは、お客さんとよく会い、よく話し、いい関係をつくることですね。目標は、身内と同じくらいの間柄です。そうなれば、お客さんも安心して家のことを一緒に考えられるのではないでしょうか。
また、設計がおわり現場作業に入ってからも、できるだけコミュニケーションは密にします。建物ができてくると、お客さんの決めることって、少なくなるのですが、そんなときでも、一緒に現場へ足を運び内部構造など、しっかり見てもらいます。自分が家づくりの主役なんだという気持ちを強く感じてもらうためです。
――住み手の気持ちを考えるわけですね。
はい。人間の気持ちや営みをどう包むか、その「包み方」でどう幸せに導けるかを常に考え、大切に思っています。
たとえば、人を好きになり、家族を作り、子供の成長を喜び、人生を振り返り懐かしむ。今も昔も、人間の感じることは、そう変わりなく普遍的なのだと思います。
そんな「大切な心」の居場所をつくるのが僕たち建築家の役割だと思っています。
片桐寛文(片桐寛文建築研究所2)
1974年 東京都生まれ
2001年 工学院大学工学部 卒業
2004年 片桐寛文建築研究所2 設立