「家族らしさ」をどう表現するか
濱田修(株式会社濱田建築事務所)
住み手の趣味や家族関係から空間をデザインをする――。よく聞く表現だが、実際にどういうことなのだろう。夫婦は同じ部屋ですごしたいから寝室はこう、子供は受験をひかえているからこう、という具合に決まっていくなら、結局、形式通りの空間になってしまうような気もするが……。こんな疑問に対して、濱田氏は語る。「大事なことは空間デザインに『家族らしさ』が表現されているかです」。背景にあるのは、建築を目指した原点でもあり、注文住宅やリフォーム、自邸づくりで培ってきた「家族」への想いだ。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――ご自宅と事務所も自分で設計したとうかがいました。
「KUSHI+DANGO」という作品ですね。私の一家4人の自宅と設計事務所、それに4戸の賃貸住宅がつながった建物です。集合住宅なのですが、長屋のように家が密着するのではなく、世帯ごとのプライバシーを保てる距離を取りつつ、共用の廊下で立ち話をしたり、中庭でバーベキューをしたり、とご近所付き合いができるデザインになっています。第24回すまいる愛知住宅賞をいただきました。
――子どものころから家づくりに興味があったのですか。
私の家は祖父の代から建築一家で、建築が身近だったことは確かです。ただ、いちばん影響を受けたのは建築家・宮脇檀の『父よ家へ帰れ』という本で、これが原点ですね。簡単にいうと「日本のお父さんはあまり家に帰りたがらないけれど、本当は家は楽しいところなんだ。お父さんは家で過ごしなさい」という内容です。この本を読んだことで、「家」というものに強い興味を持つようになり、建築の道に進みました。
――これまでの活動からも「家族」というテーマを感じます。
いろいろな家をつくってきましたが、やはり家族に対する思い入れが強い人の依頼は印象に残っていますね。家というもので、家族と豊かな暮らしがしたい、家族とのコミュニケーションを深めたいという想いがあると、意思疎通もしやすい。アイデアもたくさん出る。単純に言えば、いい家ができると感じています。
――どんなことを考えてデザインするのですか。
家族のコミュニケーションを育むことが一番大切ですね。たとえば子ども部屋をつくるか、カーテンや家具で個人のスペースを仕切るかでも関係性に変化が生まれます。ただ、家族によって関係性や距離感はさまざまですから、そこは家族ごとの距離感を尊重しなければなりません。誰もがベタベタしたいわけではありませんからね。
また、デザインは、内から外に向かって考えていくことを心がけています。まず家族の姿、家族の関係性があって、そこから室内空間を考え、次に屋内空間、そして外観デザインへ・・・という具合に広げていくわけです。
そうやって、最終的に「その家族らしさ」がにじみ出るようなかたちになればいいな、と思っています。
――ハードではなくソフトから考える、と。
いつも思うのは、家づくりにおいて「デザインに感情が入っていなければいけない」ということです。そもそも、家族というもの自体、夫婦や親子といった感情でできているものですからね。
濱田修(株式会社濱田建築事務所)
1967年 愛知県名古屋市生まれ
1991年 日本大学工学部土木工学科 卒業
1991年 株式会社濱田建築事務所 入社
2001年 同社 代表取締役
2005年 愛知産業大学 非常勤講師
2007年 トライデントデザイン専門学校 非常勤講師
2010年 CCDOデザインアオード 入選
2011年 わが家のリフォームコンクール 愛知県知事賞
2012年 すまいる愛知住宅賞
2013年 グッドデザイン賞
2014年 わが家のリフォームコンクール 名古屋市長賞