「『作品』より断然『注文住宅』です」
伴尚憲(株式会社bandesign)
「僕は建築をよくしていきたいんです」――。さまざまな建築家にいろんな話を聞いていても、案外こんな言葉は出てこないものだ。それが、出た。二度も三度も。23年のキャリアを持つベテランである。この言葉に続いて語られるのは「注文住宅」というものへの情熱。いったい何が、彼にこんな言葉を口にさせるのか。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――代表作「Turn,Turn,Turn,」はグッドデザイン賞をはじめ数々の賞に輝きました。
ありがたいことです。もちろん賞自体もうれしいのですが、建築についての自分の考え方を第三者の審査員に支持してもらえたということが、活動していく上でものすごく励みになってます。「そのまま進んでいっていいよ」と言っていいただいたようで。
――受賞作のテーマでもある「サスティナビリティー(持続可能性)」とは、なんですか?
簡単にいえば、「建物の供用年数までちゃんと使いたい」と、それだけのことなんです。
たとえば、鉄筋コンクリートの建物は少なくとも60年、長ければ100年くらいは持ちます。ところが、ほとんどの建物は数十年で壊されている。建物に求められる機能や用途が変わるだけで、建て替えられているんです。
そんな現状に対しては僕は「なにやってんの?」「もっと使えるはずじゃないか」と感じている。だから、本当に100年使ってもらえる建物を作ろうとしているんです。単に「構造的に強くて100年持ちます」ではなく、「世の中がどんなに変わったとしても、100年後も使われている建物を作ろう」ということですね。
――そんな思いはどこから来たのですか?
大手の建築事務所に務めていたとき、超高層ビルを担当したことが大きいですね。ビルの場合、テナントはコロコロ変わるし、オフィスや店舗といった空間の用途まで変わったりする。だから、先のことまで徹底的に考えてデザインします。そういう建物をつくるときの技術を住宅にも使いたいと思いました。
つまり、「長年住める建物のかたちとはどんなものか? どんなあり方が自然にかなっているのか? 環境に対してもよりよい建築ができないか?」ということを追究して家を建てたい、と。
――なるほど。
まあ、一方でこういった建築家の思いなんて、ほとんどのお客さんにとってはどうでもいいわけですが(笑)、それでいいんです。
お客さんは「あんな暮らしがしたい」「こんな空間がほしい」というリアルな体験に基づいた意見を出し、建築家は専門家としてクオリティの高い建物を作ろうとする。両者の幸福な接点をどう見つけるか。そこが腕の見せ所ですね。両者がかけ離れているほど、エネルギーが要るのでいい家ができます。だから“ムチャ振り”は大歓迎です。
――ちょっと意外でした。
建築を熱く語ったりするせいで誤解されがちなんですけど、僕は「注文住宅」が好きなんですよ。建築家の「作品」じゃなくて、建て主の気持ちがこもった「注文住宅」が。注文住宅は、クライアントの「こんな家に住みたい」という願望、その一点で作られる。そこに良さがあります。
もちろん注文住宅でも「サスティナビリティ」が基本です。デザインが先鋭的でカッコイイとか、そういうことじゃなくて「100年後も住めるか」と考えますから、安易なひらめきでプランつくったりはしません。
いつまでも変わらない「注文住宅」の良さを、これからも求めていきます。
伴尚憲(株式会社bandesign)
2013 株式会社 bandesign 法人化
2007 バンデザイン一級建士事務所を開設
2006 Westforth Architecture New York
2004 渡米
1992~2004 日建設計名古屋
1992 東海大学工学部建築学科卒業