クライアントの「暮らしを描く力」に応えたい
浪瀬朝夫(浪瀬建築設計事務所)
施主は「○○がほしい」「△△がしたい」と要望を伝え、建築家はそれを実現できるプランを出す――。このようなやりとりはもう時代遅れなのかもしれない。浪瀬氏が語るのはこのような硬直化した家づくりに対する一つの疑念だ。本当に望む暮らしを手に入れるために、住み手は何を建築家に伝えればいいのか。
インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部
――大学の建築学部を卒業後、ずっと建設会社にお勤めだったんですね。
出身は大阪なのですが、設計部にいて10年ほど東京支店で設計をしていました。大阪に転勤になり個人的な依頼があったのを機に、97年に事務所を構えました。
――子供のころから建築に興味があったんですか?
中学校時代の夢は建築家でしたが、絵も好きだったので、美術の世界にも惹かれていましたね。
ただ石膏像を作ったり粘土をこねたりと立体のものをつくっているとき、強い充実感があったので、最終的に建築を選びました。
ものづくりに充実を感じて、自分を高めながら世の中の役に立つことができる。これが建築を選んだ最大の動機ですね。
――その後、キャリアを重ねてきた上で、どんな建築を作りたいと思っていますか?
住宅の場合、まずは住み手の暮らしの背景になり、機能する場となることが第一です。その上で、これからの時代の変化に合わせた家づくりを考えることが大切だと思います。
――変化とは?
かつての家づくりは、どちらかというと建築家が主導的でした。クライアントのスタンスも、「建築家へおまかせ」という受動的なものも多くみられました。
ところが、近年の住み手は、自分たちの暮らしを具体的に描くことができる。情報やモノがあふれた結果、住み手としてのリテラシーがどんどん上がっているからです。
だから要望は自由にどんどん語ってほしいですね。それに応じて、建築家も引き出しを増やしていかねばならない、と最近よく感じます。
――建築家の役割にも変化が出てきている、と。
言い換えるなら「お客さんの視点やセンスをどんどん活かしたい」ということですね。今でも、クライアントに要望を聞いたら、すぐ建築家がプランを描いて見せる、といったやり方が多いように思います。しかし、このやり方では、プランを見せた時点でクライアントのイメージが固まってしまうという問題もあります。
建築家の役割とは、クライアントの視点や発想の中にある「いいアイテム」をできるだけ多く集め、専門知識を使って美しいデザイン、構造の強さ、機能性の高い家にまとめ上げることではないでしょうか。クライアントには、自分自身にぴったりの住まいを提供したいと考えています。
浪瀬朝夫(浪瀬建築設計事務所)
1958年 大阪府生まれ
1982年 京都工芸繊維大学建築学科卒業
建設会社設計部 入社
1997年 浪瀬建築設計事務所開設
受賞
1992年 (社)日本建築協会第39回青年技術者
選衡入選 (設計部門業績評価)
2003年 豊中市都市デザイン賞